息吹/テッド・チャン 著

あなたの人生の物語」を映画化した「メッセージ」で、世界的にブレイクしたテッド・チャン。待望の最新作品集がついに刊行。『千夜一夜物語』の枠組みを使い、科学的にあり得るタイムトラベルを描いた「商人と錬金術師の門」をはじめ、各賞受賞作9篇を収録

テッド・チャンのSF短編集。

どの短編もSF的な、ある事物が存在することにより人々がどのように反応し行動するかという物語で、奥行きが深い。その奥行きは人間や社会に関する洞察が深いところから来ているように思う。

収録作品の『予期される未来』は

もう予言機を見たことはあるだろう。あなたがこれを読んでいる時点で、予言機は数百万個売れている。見たことがない人のために説明すると、予言機は、車のキーレス・エントリーに似た小さな装置で、ボタン一個と大きな緑のLEDがついている。ボタンを押すとライトが光る。厳密に言うと、ボタンを押す一秒前にライトが光る。

という予言機が存在する世界で、人々はどうするのかというもの。たった四ページの極々短い短編で、そこに登場するガジェットも簡単かつ単純なものだが、自由意志だとか運命みたいなことを考えてしまう。小説の中に書かれていること以上の広がりを感じる。

他にもアラビアンナイトのような『商人と錬金術師の門』や、違う人生を送っている並行世界の人と交信できるプリズムの物語『不安は自由のめまい』などが印象に残った。