小隊/砂川文次 著

軍事描写のあまりのリアルさに話題となり、専門家をも唸らせた『小隊』にデビュー作『戦場のレビヤタン』を合本して文庫化。
ブラックボックス」で第166回芥川賞を受賞、元自衛官という異色の経歴をもつ作家が放つ、衝撃の戦争小説3篇。

 

タイトル作の『小隊』はロシア軍が北海道に上陸して、それを迎え撃つ自衛隊の話。元自衛官らしいリアルな描写が凄いと思うけれど、よく考えると自衛隊は本当の戦争を戦ったことがないのだと気づく。
収録作『市街戦』は自衛隊での行軍、戦闘訓練を描いたもの。読んでいると行軍での肉体の疲労感が伝わってくる。文章でそのような体感を再現できるのはやっぱり凄いことだと思う。
書店で日本の現代文学の棚は、ちょっと前までは著作者が男性か女性かで分けていたものだけれど、この頃はそういう区別をしていない。そんな棚を眺めていると最近は女性作家のものが目立つ感じがあって、男性作家の影が薄いようにも思える。
軍隊を描いているということもあるだろうけど、文章が硬質で男性作家が描いたもの独特の雰囲気がある。

猫と庄造と二人のおんな/谷崎潤一郎 著

一匹の猫を中心に、猫を溺愛している愚昧な男、猫に嫉妬し、追い出そうとする女、男への未練から猫を引取って男の心をつなぎとめようとする女の、三者三様の痴態を描く。人間の心に宿る“隷属”への希求を反時代的なヴィジョンとして語り続けた著者が、この作品では、その“隷属”が拒否され、人間が猫のために破滅してゆく姿をのびのびと捉え、ほとんど諷刺画に仕立て上げている。

 

なんてことないお話。
荒物屋の夫婦がいて夫は猫を可愛がり過ぎていて妻はそれが気に入らない。一方、夫の別れた元妻は猫をこっちに寄越せという。夫は猫が可愛くて手放したくない。
どうでもいいような何気ない話だけれど、良い落語を聴いているようにスルスルと読んでしまう。これは文豪谷崎の小説だと知らなくても同じように読むだろうかとも思うけれど、語り口が心地良いということはやはり文豪の作だからなのかも知れない。猫が好きな人は読めばいいと思うよ。

賢人と奴隷とバカ/酒井隆史 著

ポピュリズム」「反知性主義」「ポスト・トゥルース
時代を「象徴」する言説に潜む〈大衆への差別的なまなざし〉。
資本主義×知識人が一体となって管理・支配しようとする現況を問い、近代社会の土台に存在する、無名の人びとが蓄積してきた知や技術に光を当てる。

 

先に『思想としてのアナキズム』という本を読んで、文章が難しいと思ったけれど、この本も難しい。それでも右傾化、ポピュリズム新自由主義、資本と権力に隷従する態度こそが、今の時代の悪しきものだと分かる。

この本にも「エキストリーム・センター」のことが書かれている。中道を装って過激な政策を支持する勢力のこと。右でも左でもないという意味では中道かもしれないけれど、その支持する政策は新自由主義的で右傾化保守化した勢力と言ってることはあまり変わらない。自分のことを中道だと思っているけれど新自由主義に洗脳されていることに気付いていないだけだと思う。

思想としてのアナキズム/森元斎 編

いかに「思想」としてのアナキズムを保持し得るか。どこまで原理的に、かつ多様に、アナーキーであり続けられるのか――。

暴力論、運動実践、哲学、人類学、宗教、音楽、映画、フェミニズム、近代日本、さまざまなベクトルが交差するアナキズムの現在。

 

ちくま新書アナキズム入門』の著者、森元斎さん編集によるアナキズムに関する論集。

ロジャヴァ革命、幸徳秋水有島武郎、デヴィッド・グレーバー、そして山伏とパンク、色んな人や出来事を契機にアナキズムの在り方、古来から従来からあるものがアナキズム的であったことが色んな論者によって書かれている。

しかし、どれも文章がちょっと難しい。そして色んな分野に派生していてアナキズムというものが何なのかは判り難くなっている。

とは思うのだが、アナキズムってそういうものなのかも知れない。こちらが「アナキズムとはこうである」といった聖典を求めているだけで、アナキズムというのは、そういう聖典に忠実なものとはかけ離れている考え方かも知れない。抑圧から自由であることを求めるのなら「アナキズムとはこれである、これ以外は認めない」みたいな教義がある方がおかしいとも言える。かもしれない。

デューン 砂の惑星 PART2

2023年、米国、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

惑星アラキス、皇帝とハルコネンと策謀でアトレイデス家は滅亡したかに見えたが、長子のポール・アトレイデスは砂漠の民フレメンと共に反攻を企てていた。

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大作SF映画として文句なし。面白かった。
PART1も砂漠の惑星に入り込んだような没入感があって好きだったけれど、テンポがゆっくりだったのは否めない。でもこのPART2は怒涛の展開。陰謀と策略、戦闘と戦争、次から次に物語が展開していって長尺の映画だということを感じさせなかった。

SF映画の醍醐味は見たことがないような異世界をビジュアルで見せてくれることにあると思うけれど、その意味でも色んなSF的ガジェット、異教の世界、そして宇宙、と色んな世界を見せてくれた。端的に楽しい。

宮廷内での権力の駆け引きからくる陰謀と策略みたいな話は映画にすると判り難くなったりするものだけれど、観ていてすっきり入ってくる。物語の整理と脚本が上手いのだろうなと感じた。

PART2で完結だと思っていたけれど、これは続きがある感じですよね?