不思議惑星キン・ザ・ザ

1986年、ソ連ゲオルギー・ダネリヤ監督作

技師の男は街で学生に「宇宙人が困っている」と声をかけられる。宇宙人と名乗る男の装置を不用意に押してしまったことで男と学生は砂漠の惑星に転送され、そこから地球へなんとか帰ろうとするお話。

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『DUNE PART2』が公開になったのでPART1をおさらいしておかねば、と思ってアマプラを覗いてみていたら、ついポチッと『不思議惑星キン・ザ・ザ』を観てしまう。

確かに不思議。手の平サイズの物質転送装置で銀河のどことも知れない星に転送されるなんて。その上、砂漠ばかりで水の無い星、空中を飛ぶ乗り物、住人は支配階級とそうでない者に別れていて階級差別が酷い、上位の者に表す敬意の仕草がまぬけ、等など不思議なことが沢山ある。不思議満載。

あれやこれやのトラブルが頻出しなんとか地球に帰ろうとする地球人二人のお話だけれど、SF的設定は微妙。銀河のどこかの星系のある惑星、程度のアンリアル設定。それでも絵的に面白いのでワクワクする。広大な砂漠はソ連領内のどこかで撮ったのだろうか。かと思うと退廃的な工場のような奥行きのある場面がある。螺旋階段の下層に砂が流れ込む映像や砂漠の地下に住人が沢山いる群衆シーンなど、はっと驚くような、というかどこに金をかけているのか、と思わせるシーンがあり退屈せずに観続けられる。たぶん子供だったら一生心に残るくらいのワクワクストーリーだと思う。

権力者が威張っていて階級差別があるところなんかは当時のソ連の社会を皮肉っているのかも知れないけれど今となってはもう分からない。でもそんなことが分からないで観ていても楽しい映画。カウリスマキ映画に通ずるテンポ感がある。

息吹/テッド・チャン 著

あなたの人生の物語」を映画化した「メッセージ」で、世界的にブレイクしたテッド・チャン。待望の最新作品集がついに刊行。『千夜一夜物語』の枠組みを使い、科学的にあり得るタイムトラベルを描いた「商人と錬金術師の門」をはじめ、各賞受賞作9篇を収録

テッド・チャンのSF短編集。

どの短編もSF的な、ある事物が存在することにより人々がどのように反応し行動するかという物語で、奥行きが深い。その奥行きは人間や社会に関する洞察が深いところから来ているように思う。

収録作品の『予期される未来』は

もう予言機を見たことはあるだろう。あなたがこれを読んでいる時点で、予言機は数百万個売れている。見たことがない人のために説明すると、予言機は、車のキーレス・エントリーに似た小さな装置で、ボタン一個と大きな緑のLEDがついている。ボタンを押すとライトが光る。厳密に言うと、ボタンを押す一秒前にライトが光る。

という予言機が存在する世界で、人々はどうするのかというもの。たった四ページの極々短い短編で、そこに登場するガジェットも簡単かつ単純なものだが、自由意志だとか運命みたいなことを考えてしまう。小説の中に書かれていること以上の広がりを感じる。

他にもアラビアンナイトのような『商人と錬金術師の門』や、違う人生を送っている並行世界の人と交信できるプリズムの物語『不安は自由のめまい』などが印象に残った。

アメリカ映画の文化副読本/渡辺将人 著

〈7つの文化〉で紐解いていく「アメリカ」。お馴染みの著名作品から日本では劇場未公開の知られざる個性派作品、Netflixオリジナル作品やAmazonプライムなど配信系オリジナルの映画ドラマまで数多くの作品を幅広く紹介。

アメリカ映画の中で、アメリカ人なら知っていて当然、常識、そんな事柄を詳細に解説してくれている本。アメリカ映画で舞台となる都市と地域が表す意味、宗教や人種がどのように捉えられていてどのように機能しているか。それが分からないと映画を観ても笑えなかったり理解できなかったりする事柄が書かれている。

例えば、先日観た『ボーはおそれている』という映画は母親が全てを仕組んで監視していたというオチだったけれど、これはユダヤ人の母親が子供に強く干渉するジューイッシュ・マザーというものがあるらしい。そういうことが書かれていて、あらためて知った。というか、知らんがな、の世界。特に大学と進学については知らないことが多かった。

ただ、こういう本を読んで予備知識を身につけて映画を鑑賞するのも手だろうが、映画を沢山観ることによって「アメリカってこんな風になってるんだなあ」と学ぶことも多い。映画はただの娯楽に見えて文化の輸出という意味では大きなものなのだと思う。

THE MISSING BAR/DUSTBREEDERS

フランスのノイズバンドDUSTBREEDERSに非常階段のJUNKOが参加してのライブ録音盤。

DUSTBREEDERSというバンドは活動歴も長いようだけれど知らなかった。先月かな、なんばのベアーズでSOLMANIAとのライブがあったはずだけれどお金も気力もなくて見に行けなかった。ないないづくし。

レコードを聴くと、これはライブで観たかったなあと思う。こういうものは、その演奏とライブアクションが一体となって面白いものだろう。どうしてもライブの録音を聴いているだけという気がしてしまう。しかし強烈なハーシュであり、ギターノイズを楽しむことはできる。発散している音から情熱が感じられる。うるさい。ライブ盤特有の空気感も密封されている。でもライブ観たかったな。

フランスのノイズの人ってあまり聞かなかったけれどやっぱり居るんですね、という感想だが、まあ、居るだろう。世界中にノイズは居る。

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会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる/石動龍 著

公認会計士・税理士として働く傍ら、地元八戸市で「ドラゴンラーメン」を開業した著者による、ラーメン屋を題材にした管理会計の入門書。「会計士・税理士としての専門知識」×「ラーメン屋の実体験」を交えながら、管理会計を具体的・実践的に解説します。

 

これ

経営者やけど、最低賃金1500円が目標っていわれてるけど、年収換算で288万円もするんだぞ。払えるわけないじゃん

を読んで、中小企業経営者というのは労働者を犠牲にしてでも己の事業の継続をはかるのだなあ、とあらためて思うのだった。
人件費が高騰すれば売価に転化すればいい話だけれど、現実はそうもいかない。そこら辺の理屈は少し弱くて、原価だとか粗利だとか利益率なんて雰囲気で話しているけれど会計学を学んだこともないので用語の正確な使い方があってるのかも不安。なので、少し柔らかい本から入ってみてはどうかと思って読んでみた一冊。
著者は士業でありながらラーメン店やワイン店などを経営していて、ラーメン店の方の実例を引きあいに出して説明しているので分かり易い。しかしやはり分かり易いだけあって会計の入門のほんの先っちょだけという気もする。

売上から変動費を引いたものが限界利益です。

変動費は売上に応じて変動する費用(材料費など)。これは分かる。

積み上げた限界利益と固定費が一致する点が損益分岐点です。

固定費は売上の大小に関わらず支払う必要がある費用(家賃、人件費など)。これも分かる。人件費は売上げが多くなれば残業代なども発生するので固定費でいいのかという疑問もあるけれど次へ。

そして

儲けをたくさん残すには、どのような条件が必要でしょうか?まず1つは、固定費を下げることです。(中略)もう1つは、限界利益を増やすことです。(中略)そして、限界利益を増やすには3つの方法があります。1つ目は、価格を上げることです。(中略)2つ目は、変動費を下げることです。(中略)3つ目は、売上げ機会を増やすことです。

とある。

先の匿名ダイアリーを書いた者の業種は分からないけれど、大方あてはまると考えよう。
価格を上げることはできないのだろう。取引先からの圧力や「それなら他所と取引します」とでも言われてしまうのだろう。この辺りも本書では「供給企業の交渉力」という項目で、中小企業は交渉力が弱い立場なのだということも書かれている。変動費、つまり原材料費を下げることについても仕入れ単価を交渉できればよいが中小企業は交渉力が弱い。「価格が気に入らなければ買っていただかなくても結構です」と言われればおしまいだ。売上げ機会を増やすとは売上げの個数、件数を上げることだが、それができれば苦労はしない。かくして固定費の内の人件費を抑制することに目が向く。理屈の上では間違ってない。

ただし、よくよく考えると、どの方法も交渉力の弱さから塞がってしまうけれど、人件費の抑制だけは経営者と労働者という立場の違いから経営者の方が強く出ることができる。結局は弱い者に解決策を押し付けているに過ぎない。臨床心理士である信田さよこさんの本には暴力が強い者から弱い者へ流れていくことが書かれていたが、暴力ではなくとも経済的な問題も強い者から弱い者へ負担が押し付けられているのが感じられる。経営者たちは結局のところ強い者には従い自分より弱い者に損を押し付けているだけなんですよね。経営者たちはそこに自覚があるだろうか。己の事業を存続するために労働者を犠牲にしていないだろうか。

最初は内容が軽すぎると思ったし堀江貴文を持ち上げているところなどがあって、危ういなと思ったけれど会計学の入門編としてはわかり易かったんじゃないでしょうか。