火星の人/アンディ・ウィアー 著

有人火星探査によって火星に降り立った宇宙飛行士たちは、強い砂嵐の為に撤退を余儀なくされる。彼らは帰還船に乗り込もうとしたが、その際に乗組員の一人、ワトニーに飛んできたアンテナが突き刺さり彼は強風で吹き飛ばされてしまう。彼が死んだと判断した他の乗組員たちは、帰還船に乗り地球への帰路についた。しかしワトニーはまだ死んでいなかった。
彼は残りの食料と水、空気とエネルギーを知恵と工夫で克服し、なんとか生き残る術を探していく。
火星におけるサバイバルSF小説

 

滅茶苦茶面白かった。読んでいる間、次はどうなるのかとハラハラしながら読み続けた。

火星探査の基地としてハブと言われる小屋のような基地があり、瀕死のワトニーはなんとかそこにたどり着く。そして各種チェックと計算を行い、今手元にある資源だけで何日生き残れるかを算段する。もしも地球に帰れるとしたら4年後にやってくる予定の火星探査隊に合流する方法しかないが、そこまで生き残れるかどうか必死の努力が続く。機械を修理し、食料の中からじゃがいもを見つけ土を作り栽培する。科学と現実がすべてを左右する。超ハード現実。
ハブから過去にやってきた火星探査の遺物(ローバー)まではるばる旅をし、そこから通信に必要な機器を分捕ると地球との通信が回復するが、ここからは火星と火星から地球への帰路にある宇宙船、そして地球のNASAの人々との協力でなんとかワトニーを地球に帰還させようとする。この感じはアメリカらしいなと思う。
第二次大戦の時に日本軍は「生きて虜囚人の辱めを受けず」などと言っていたが、米軍はというと、戦死した兵士の遺体は極力本国に連れ帰ったらしい。戦闘機の防備も日本軍は機動性のために装甲を薄くしたが、米軍は逆だった。同胞の人命というものに対する考え方が根本的に違うと思う。

基本的に工学と技術者を讃える物語になっている。結局なんだかんだ理屈をこねたり理論を積み上げたって現場で手を動かして作業する人間がいなければ何も実現しない。火星で一人になって生き残る為には科学と工学、そしてそれを実現する技術が物を言う。
でもそれって地球上でも一緒。今我々が生きている現実世界だって科学と技術によってこんなに便利な世の中になっている。なのに陰謀論やスピリチュアルみたいなものにはまる人がいて、そういうものばかり喧伝されているように見える。精神世界がどうだこうだとか言うのならば、その力で画像データのひとつも送受信してみればいいのに。

次々と降りかかるトラブルを技術と技能と執念で乗り越えていく主人公の活躍は工学部出身者には感涙モノでしかない。そして火星と宇宙船と地球の人々の意志と思惑が交差する人間ドラマも読み応えがある。

刊行時にとても話題になっていて高評価になっていたけれど、やっとそれを確認できた。著者の近刊である『プロジェクト・ヘイル・メアリー』も高評価の声を聞くので読んでみたいが、どうしよう。文庫になるのを待つか。悩むところ。映画化された『オデッセイ』も近々観て確認してみたい。