社会心理学講義/小坂井敏晶 著

社会心理学とはどのような学問なのか。本書では、社会を支える「同一性と変化」の原理を軸にこの学問の発想と意義を伝える。人間理解への示唆に満ちた渾身の講義。

 

「はじめに」の章で

本書は、私が勤務するパリ第八大学で修士課程の学生を対象に行った講義を基に構成しました。社会心理学講義とはいえ、概説や入門書ではありません。影響理論を中心に話を進めますが、個々の内容よりも社会心理学の考え方について批判的に検討します。

とあるように門外漢には少し難しかった。しかし既にある社会制度が維持される心理的な作用や少数派の意見がどのように個人の意識に作用するかといった実験と理論は読んでいて驚きと発見があった。
例えば、個人の意見は多数派の意見に左右されるという実験結果もありながら、モスコヴィッシの実験からは少数派の意見が無意識の部分に作用することが示される。ここから

少数派影響の特徴をさらに抽出します。多数派の影響はすぐに現れるが、その場限りで消えやすい。対して少数派の場合はすぐに効果は現れないが、時間の経過とともに徐々に影響効果が浸透してゆく。

と、実験結果から社会が少しずつ変化していく原因を解き明かしてくれる。

本書を読むまでは社会心理学などという学問分野があることさえ知らなかったけれど、とても面白い分野で、それを研究している人たちがいることも知った。
たぶん、この本を読んだことが明日からの生活に役立つということはないのだろうけれど、それでも知らないより知っている方が良い。知識のない、浅い人間ほど人を断罪する傾向があるから、そうならないためにも色んなことを知っておいた方が良いと思うので。