セル/スティーヴン・キング 著

ある日ある時、携帯電話を使っていた人たちは気が狂ってしまった。彼らは正常な人を襲い、殺して、街は阿鼻叫喚の混乱に陥る。この災厄から逃れた3人の男女は街から脱出するべく歩き始める。

アホみたいな話である。
ある時刻に携帯電話を使っていた人は突然気狂いになって街を破壊し、人を殺しながら徘徊し始める。道路には事故車両と乗り捨てられた車があふれて公共交通機関も停止し、やがてインフラも止まってしまう。偶々、携帯電話を使っていなかった人たちは、気の狂った携帯狂人から隠れ逃げ惑う。主人公は家に残した家族が心配で、歩いて家に帰ろうとし、街で生き残った2人と徒歩旅行を始める。

携帯電話を使っていた人たちがゾンビになるというところがアホみたい。「なんでやねん」としか思わない。けれど、その「なんでやねん」はグッと飲み込まなければならない。「まぁそうか、そういうこともあるかも知らんな」くらいの寛容な気持ちで読み進めなければならない。

読み進めれば、ゾンビが徘徊する世界で旅をする小さなパーティのロードノベルとなる。小さな発見で危機を乗り越え、仲間に出会い逆襲する。しかしそこでも仲間を失い罪を背負う。ゾンビものとして楽しいし、愛着のある登場人物が亡くなるときは悲しい。アホみたいな発端でこの物語が始まったことは忘れて涙さえ滲む。新しい仲間との出会いもある。そして知恵を使って危機を乗り越える展開もある。そこに感動がある。およそあり得ないアホみたいな設定だったにも関わらず。

キングの小説は場面描写が執拗で隅から隅まで文章で描写しようとしている。映画であれば画面の端から端までピントがあってるような状態。「そらそんなことしてたら文庫本でも上下巻になりますわな」という感想を持つ。

まあ、でも、めちゃくちゃ面白いですね。ゾンビ、ロードノベルって好きな要素しかない。ちなみに作品が出たのは2006年でスマートフォンが普及する前のお話。