マトリックス・レザレクションズ

2022年、米国、ラナ・ウォシャウスキー監督作

 

SF映画における永遠の名作『マトリックス』の続編。

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かなり前からこの映画を楽しみにしていて、その期待が大き過ぎたのか、鑑賞後は暗澹たる気持ちになって元日の映画館を後にした。「新年一発目の映画がこれかよ」みたいなクサクサした気持ちを慰める為にビデオで『マトリックス』をもう一度鑑賞した。

 

何回見ても素敵な映画だと思う。公開は1999年だから。
当時のことを思い出すと、Appleから発売された初代のiMacを手に入れてインターネットの世界に触れ始めた頃。毎晩夜遅く、電話回線の接続時間が無制限の時間帯にログインしてインターネットを探索した。その頃にここまでの仮想空間の世界を夢想して、映像として創造したことが画期的だと今でも思う。
そのような着想だけでなく「異世界に行ったら最強の人物に生まれ変わっていた」という現代のライトノベルで見られる物語の骨子も先取りしていたし、「この世界には公表されていない秘密がある」というネトウヨや、米国であればQアノンのような陰謀論にはまる人たちの心性も描かれている。

そして何よりも映像が格好良い。待ち合わせの橋では雨が降っていて橋脚からは滝のように水がふりそそいでいる。そこに止まる古いタイプの車。中には見知らぬ、そして怪しい仲間たち。色合いと陰影が美し過ぎる。アクションも必然性ではなくて、如何に格好良いかが重要で、日本の漫画から影響を受けた痕跡が見られる。漫画の格好良いコマがなんで格好良いのかというと、あれは歌舞伎の見得であって、その美学が生きている。

そして、この物語は強い者に立ち向かう少数派の物語でもある。仲間から裏切り者が出るけれど、彼は強い者に寄り添って生きていった方が反抗するよりも楽だということを体現している。今もそういう人は沢山いる。

 

そんな素晴らしい映画の続編である『レザレクションズ』はノスタルジーにまみれた映画だった。懐古。途中に監督の考えを登場人物がそのまま述べるようなセリフがある。ウォシャウスキーも『マトリックス』を作ってから色々あっただろう。無理解な批判も浴びただろう。映画は監督のものだから、そういう思想や思考を込めるのは悪くない。でもそれを物語に編み込んで伝えないと。ただセリフで伝えるなんて安直すぎるだろう。

物語の進行も人物の会話でどんどん進められる。『マトリックス』は設定の多い世界観の映画だからやむを得ない部分はあるし、一作目でもその傾向はある。でもあまりにもセリフだけで物事がすすめられて、その時の映像も登場人物が代わる代わる映るカットだけ。動きもなく単調で見てられない。そして映画全体のテンポが単調過ぎる。

アクションも何だか混乱していて分からない。映画が下手になっているのじゃないだろうかウォシャウスキー

 

『レザレクションズ』は一作目『マトリックス』の同窓会でしかない。ノスタルジーだけならそれでも満足できるかもしれないが、もうちょっと盛り上がる同窓会じゃないと。出席者が少なすぎたんじゃないの?