ドゥ・ザ・ライト・シング

 1989年、米国、スパイク・リー監督作

黒人街でイタリア系白人の親子はピザの店を営んでいて、客で賑わっていた。
店を訪れた客の男は、壁に飾られた有名人の写真に黒人が一人もいないことに腹を立てて、あの店に行くのはボイコットしよう、と人々に働きかける。
でかいラジカセを持ってHIPHOPを鳴らしながら街を闊歩する男はピザ店に入店するも、音楽を止めろと注意される。
夜半彼等は店に抗議をする為に訪れるが店主と喧嘩になり、それが暴動に発展する。

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およそ30年前の映画、だけどとてもタイムリーな映画で、現在アメリカで沸騰している黒人差別への抵抗運動<BLACK LIVES MATTER>とリンクしている、というか相似形のお話になっている。

前半は黒人街の住人たちの生活をコミカルに描いている。
ピザ店で配達の仕事をしている男、彼の妹、妻、酒を飲みながら街を徘徊する老人、道端でだべり続ける三人の中年男、商売が繁盛している新参者の雑貨店の店主である韓国人、4人組の男女の若者、ラジオ局のDJ、そんな人々の暮らしぶりを描いていて、社会的な問題を描いた映画だとは思われない。

後半、映画の調子は一転し暴動を描いたものになる。ラジカセの男と写真の件で抗議しようとする男がピザ店を訪れ、店主と言い争いになり、白人の店主はラジカセをバットで叩き壊してしまう。そこから喧嘩になり、野次馬を巻き込んだ騒動となり、警官がやってきてラジカセの男を窒息死させてしまったことから、店のガラス窓を割り店内を破壊して略奪する暴動となって、あげくに火までつけてしまう。

黒人を警官が取り押さえようとしてして殺してしまう。それを契機として暴動が起こり商店の破壊や略奪が起こる。30年前に映画で描かれているものと同じことが現代アメリカで再演されている。

でもこの映画は正義と悪を明確に分けるような描き方はしていない。白人が悪で虐げられた黒人が善だというような勧善懲悪の構図にしていない。

店を壊されることになる白人店主は自分の店を守る為に必死で働いている。一方の黒人はピザ配達の途中にも道草をくったり、店の電話を使って私的な話をしていたりして勤勉とは程遠い。他の街の住人たちも。

仲間が殺されたことにより暴動が発生するには、日頃の鬱屈、鬱憤が溜まっていたという描写が必要になるだろうが、それらは映画の中ではあまり描かれない。
車でパトロールする警官が黒人たちを睨みつける描写や、ピザ店主の息子が黒人を悪し様に言う場面もあるが、それくらいでしかない。
でもこれは説明するまでもないということなのだろう。予備知識として当然知っておくべきことなのだろう。
エンドロールで<無意味に殺された6人の黒人の家族に捧げる>とあって、恐らくは人種差別が引き金になった事件があったのだろうと推測されるけれど、そのことについて自分は何も知らない。既にそのような物事を知っている前提だということが明示されている。

善と悪に物事を区別して両者の闘いを描けば映画としては分かり易くなるだろうが、そういう風にこの映画は作られていない。でも黒人差別とその反動により起こった事件を描いていて、名作という言われることにも納得のいく作品で、甘いとか辛いとかいった分かり易い味でなく苦みのある映画でした。