掃除婦のための手引書/ルシア・ベルリン 著

毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。道路の舗装材を友だちの名前みたいだと感じてしまう、独りぼっちの少女(「マカダム」)。
波乱万丈の人生から紡いだ鮮やかな言葉で、本国アメリカで衝撃を与えた奇跡の作家。大反響を呼んだ初の邦訳短編集。

一読してブコウスキーみたいな小説だと思った。アメリカの美しくはない面、地べたで暮らしている人たちの日常、アルコール中毒、そのようなものはブコウスキーの小説にもあった。ただ、視点が女性作家のものなので、そこが違う。辛く悲しく寂しい情景が繰り広げられるけれど、その風景がなんとも沁みる小説たちだった。

訳者あとがきで岸本佐和子さんは

そして声、何よりも彼女の声だ。私は小説を訳すときいつも、この人と声の似た作家は誰だろうと考えてみる。

と書いている。確かに小説の文体から醸し出す、語り口と声が小説から聞こえてくるということはある。
声というのは他人に与える影響はとても大きくて、甲高い早口でいくら確かなことを言っていても今ひとつ軽く見られたりするものだ。落ち着いて少し低いトーンで話すと信頼を得やすいとか。
ルシア・ベルリンの声はしっかりしていて、それでも生活に疲れ果てていて、そんな弱さを隠さない毅然とした声が聞こえてくる。そしてそういう信頼できる人物の声をたとえ幻想ではあっても読者の頭の中に再生するからこの小説は人気があるのかもしれないなと思ったりする。