ザ・クリエイター 創造者
2023年、米国、ギャレス・エドワーズ監督
米国でAI(人工知能)によりロサンゼルスで核爆発が起こった。以降、アメリカを主とする西側諸国はAIの使用を禁止しAI狩りを行っていたが、ニュー・アジアと呼ばれる地域ではAIと共存していた。
米国は衛星兵器であるノマドを完成させたが、AI側もアルファ・オーという最終兵器を完成させたらしい。アルファー・オーと、その創造者のニルマータを亡き者にすべく米国は攻撃を仕掛ける。
ギャレス・エドワーズは『スターウォーズ:ローグ・ワン』の監督。ローグ・ワンは好きだったから楽しみにしていた。
映画は全般的には楽しかった。良いところがいっぱいある。でも、こういうところをちゃんとしてくれたらもっと良かったのに、と思うところもある。以下、徒然なるままに書いてみましょう。
アジアの風景に未来的ガジェットが融合している画作りは新鮮さがあって凄く良かった。東南アジアの田園風景に巨大建造物が建ってたり、巨大戦車が攻めてくるところなんかは興奮した。アジア+未来というとサイバーパンクのお家芸だけれど、あれは都市の猥雑さなんですよね。西洋の都市にアジア文化が流入して街並みに西洋的統一感がなくなり西洋文明が衰退していることの表れとしての光景を表している。この映画ではアジアの地方にも未来が侵入していることを描いていて、でもそれはアジアの田舎はまだ近代化されていないという西洋人の思い込みでもあると思うけれど。都市の描写もサイバーパンク的な密集した香港の町並みみたいなのではなく、リアルなアジアの都市に未来的な飛行物体が飛んでいたりしてグラフィカルな楽しみが存分にあった。北欧の作家だったと思うけれど、日常の光景にロボットや宇宙船のような未来ガジェットが共存している絵を描いている人がいたけれど、あれのアジア版を映画でやってくれた。
自爆ロボットの愛らしさといったら。
もうちょっと単純な話でも良かったんじゃないかなと思うのですよね。映画の中にはマクガフィンといって、ある事や物を探し求めたり奪い合う物が出てくる。秘密書類だとか大事なデータが入ったディスクだったりとか。この映画でのマクガフィンは主人公が離れ離れになった妻だけれど、途中までは最終兵器であるアルファ・オーも探すことになってる。そしてニルマータという重要人物も。どれかひとつに絞った方が良かったんじゃないかなあ。
最終兵器アルファ・オーは子供の姿をしているAIということなのだけれど、これは大友克洋の『アキラ』でしょうね。ギャレス・エドワーズには、読んでないとは言わせない。それとダライ・ラマ要素もちょっと入ってるのかもね。最後の舞台はチベット密教を思わせる場所だったから。
警察や兵隊のロボットが多数登場するが、これはニール・ブロムカンプ作品、特に『チャッピー』が思い浮かぶ。あの作品がいかに先進的で素晴らしかったのかという証明だと思う。
時々回想シーンが挿入されるのだが、それが回想なのか今起こっている場面なのかちょっと分かり難い。こういうのは演出や編集の技巧だろうなあ。
主人公を演じるのはジョン・デヴィッド・ワシントン。でもこの主人公に今ひとつ感情移入できないの。何を求めているのかがいまひとつ分かり難いんですよね。奥さんを探しているのは分かるけれど子供AIを連れ回す理由として弱いし、この登場人物が親AIなのか反AIなのかもよく分からない。そういう描写は必要だったのではないでしょか。
世界観がよく分からない。ニュー・アジアというのが国なのか国の連合なのか、そもそも米国軍と戦っている人たちが国軍なのか、それとも何かの組織なのかもよく分からない。この辺りの説明が欲しかったかも。
AIが核爆発を起こしたのは何かのミスだった、みたいなことが台詞で言われてたけど、それだったらアメリカ側が反AIになったのは滑稽なことでしかない。その程度の検証はアメリカも国としてやってるんじゃないのだろうか。とても大事なことなのに渡辺謙の台詞一言で説明されていてちょっと気が抜けた。
ネタバレになりますが、この映画では反AI勢力と親AI勢力の戦いが繰り広げられるけれど、結局は反AI側が負けるという結末になります。つまり米国側が負けることになる。米国が負けるフィクションの映画というのはまことに珍しいのではないかな。アメリカの娯楽映画というものは、なんやかんやあっても結局はアメリカ的自由と公正を主軸とした正義が勝つ!という結末が多いのに、この映画はそうではなく、全体的にアメリカがやっていることが横暴だという風に描いていると思う。あちこちでベトナム戦争を思い出すような場面があるのがそれを表してる。監督は英国人らしいが、SF映画とはいえ、こんな結末の映画も作れるのかと感心した。
まあ、なんやかんや言うてますが楽しい映画だったことは間違いないです。こういうSF映画は大好物。もっと色んなSF映画が観たい。