スパイの妻

2020年、日本、黒沢清監督作

太平戦争開戦前夜、商社を経営する男は満州で日本軍の悪行を目撃し、世界にその戦争犯罪を知らせようとするが憲兵に行動を監視される。男の妻は夫に対して信頼と疑いの気持ちの間で揺れ動く。

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黒沢清の映画を観る時には身構えてしまう。

多くの映画メディアは黒沢作品を褒めちぎるし、インターネットにも賛辞が並ぶ。ましてや本作はベネチア映画祭で監督賞を受賞していて、そういったシネフィルたちが褒めそやす映画であり映画監督であることは承知している。その良さが分からないのは映画好きとして失格なのではないかと思ってしまい、何とかその良さを知ろうとして、映画を観ている間、その時間に緊張を強いられてしまう。

でも分からないのですよね。自分には黒沢清作品の良さが分からない。
勿論、熱心な黒沢信者でもないので全ての作品は観ていない。でも幾つか観ている。そして評判の高い『カリスマ』も『散歩する侵略者』も一切何も全く面白いと思えなかった。唯一『回路』は不穏な雰囲気が印象に残っているけれど。

そんな風に、なんとか黒沢清映画に感動したいと思って観たのだけれど、面白かったかと問われれば面白かったけれど、凄く面白かったかと言われればそれほどでもないし、映画として感心したのかと言われれば、それほどでもない。申し訳ないけれどそんな感想。

1940年代の街並みを再現したセットは凄いかもと思ったけれど、本作はNHKのドラマとして企画されたもので、大河ドラマで使われたセットを流用されたものみたい。スタッフもNHKのスタッフが多数参加しているらしい。
蒼井優の台詞回しは、昔の日本映画っぽくというリクエストでもあったのだろうか。原節子が喋っているみたいだった。それはそれで憑依なのかも知れないけれど。
映画の構成にしても、ここで終わりだろう、と思う場面の後に幾つかのシークエンスがあり、最後は文字でそのその顛末を説明するという有様。それは映画としてどうなの?と思ってしまった。
憲兵の連隊長の部屋は、机の前方向に登り階段がある部屋で「これは部屋ではないよな、地下室か玄関ホールみたいな所だよな」と思って観ていたが、映画雑誌を観ると昔に建てられた公共建築の玄関ホールで撮影されたらしい。変だと思った。しかし黒沢ファンから言わせると、その奇妙さが良いということらしい。ただ単に変だとしか思わなかった。

信頼している映画評論家の松崎健夫さんによると、黒沢清のホラー映画的文法でこのような歴史的な時代を題材にした映画を撮ったということが斬新で世界で評価された、ということらしいけれど、そのホラー映画的文法も良く分からない。恐いと思わなかったから。
唯一、憲兵の拷問シーンは恐かったけれど。

そんなこんなで黒沢清という映画通のリトマス試験紙に今回も落第したのでした。何が凄いんだろう。ホントに分からない。