岸辺のアルバム/山田太一 著

昭和ホームドラマの金字塔、その原作小説。

1977年夏にTBS系列で放送され、「辛口ホームドラマ」として放送史に燦然と輝く名作。その原作小説は1976〜77年にかけて東京新聞ほかで連載された。

高度成長期の大企業に勤めるモーレツサラリーマンの夫・田島謙作。傍目には恵まれた貞淑な妻・則子。才気煥発な女子大生の娘・律子と気弱な高校三年生の息子・繁。一見すると、郊外の戸建て住宅に暮らす幸福そうな一家が、ある1本の電話から破綻に向かって走り出す。主婦の浮気、レイプなど当時は斬新なテーマを意欲的に描いた、脚本家・山田太一の代表作。

山田太一の小説。山田太一と言えばテレビドラマの名脚本家だけれど、ドラマ化を想定して小説を書いたのだろうと思える小説で、物語の起伏が1時間のドラマのようで、それが週にまたがって描かれるような感じがする。しかしその手練手管が上手い感じがする。
何かしらのトラブルがあって、それに悩み解決しようとするターンが1週のドラマに収まり、次週に期待をもたせる展開の前触れが起こる。素晴らしいと思う。
ドラマを思い浮かべながら読んだけれど、その物語が展開する妙は小説でも活きていて対技から次に家族に起こるトラブルにページをめくる手が止まらなくなるような感じがある。引きのある物語を生む技巧に誘われてそのまま一気に読んでしまう。

昭和のホームドラマの原作だけれど、今読むと逆に「昭和の家庭ってこんな感じなのか」と思いながら読んでしまうところがある。小説にしろ映画にしろ後の時代に残る物語は、良きにつけ悪しきにつけその時代の記録として捉えられてしまうということもあるかもしれない。

登場人物の動機と行動に「そう思う」という箇所が幾つもあり、そこが素晴らしいと思う。市井の俺のような平凡な人間が思うことを分かっているのだなと思う。でもドラマ的で劇的な、息子が父親に強く反抗して殴ってしまうといった場面もあって、これはやはりドラマの原作なのだなとも思う。しかし脚本家というものは、このように小説に著すことができるような緻密な物語を創造してそれを脚本に落とすのだなと思うと、その胆力にも感心する。

小学館のP+D BOOKSというシリースでの書籍だった。外国の小説にあるようなペーパーバックのような製本でカバーもなく装幀もシンプル。過去の名作という中身が保証されているからそのような製本なのかもしれないが、本というものはこのくらいで良いような気もする。