頭山満 アジア主義者の実像/嵯峨隆 著

戦前に大きな力をもったアジア主義者の浪人・頭山満(とうやまみつる)。アジアとの連帯感と侵略志向が併存するその思想を読み解き、日本のアジア観を問い直す。

ナショナリズムの本を読んで、日本におけるその源流は何か誰かということなのだけれど、右翼の本を読んでいると、その思想の源流として玄洋社頭山満の名前が度々出てくる。でも、あまり知らなかったので読んでみた。

頭山満は1855年生まれで下級武士の子弟であるらしい。幕末から明治維新の頃なので私塾に通って尊皇攘夷思想の影響を受けていたようだ。それが征韓論のようなものから大アジア主義に移行していっている。アジア主義とは言ってもアジアを征服して日本の支配下におくようなことではなく、アジア諸国が欧米列強の支配から開放されてアジア連合のような西洋文明に対抗できるような勢力になることを夢想していたようでもある。

無位無官の人と言われるように政府の要職に就いた人ではないが、政界に人脈を持ち影響力を持った人のようだ。そして孫文のような中国の活動家や朝鮮半島の民族独立を志向する人たちとも関係を持っていることが分かる。長年の政治活動で次第にそのような力を身につけていったということだろう。

ただし本書では、彼の言動を好意的に捉えすぎているような印象がある。元々が批判的に評価される人物であるので、それを覆すという意図があるのは分かるが、政界に力を持つには財政的な力や暴力装置的な裏面もあっただろうが、そのような面は記されていない。この当たりは複数の書籍にあたる必要があるとは思った。

とは言え、近代史において中国や朝鮮半島、そしてインドの民族解放の活動家と会い支援してきた人だというのは分かった。一概に悪いとも良いとも言えない、というか歴史上の人物をそのように断罪することは幼稚なことだろうなとは思う。