WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす/カール・ローズ著

現代では、大企業や富豪が社会運動に理解を示し、賛同の意思を広告媒体などを使って意思表示している。そして少なくない金額を寄付して資金的にも社会運動を援助している。このような大企業や富豪たちの行動をウォーク資本主義と呼び、その成立経緯と問題点を明らかにする書籍。

先ず「ウォーク(WOKE)」とは何を示しているのか。
元は黒人たちが使う隠語であったらしい。そして現代の用法としては「目を覚ますこと」であり、様々な社会問題(人種差別/性差別/環境問題/貧富の差の拡大/etc)に関心を持って問題視し、それらの解消に向けて行動することや人達を指す。多くはリベラルな考えを持つ人達に支持されている。
ただし、もうひとつの用法も広まっていて、前述のWOKEな人を揶揄する意味でも使われている。本書の副題である「意識高い系」などもその現れだろう。日本語のインターネット環境ではこちらの用法を見る機会が多い気がする。

企業そして経営者というものは株主に対して貢献することが第一の義務であるという考え方が支配的であったが、それが米国では近年変わってきており、企業、若しくは経営者達が、リベラルな人々が課題としているウォークな事柄に関わるようになってきた。企業も経済活動だけでなく社会に関わり貢献していくことが求められ、企業側もそれに応えるようになってきている。具体的には社会運動に賛同し、資金を提供して支えていく、このような起業家たちの行動を本書ではウォーク資本主義と読んでいる。

一見良いことのように見える。
しかし右派からは企業が政治に介入すべきではなく経営者は企業活動に専念すべきだという批判もある。また左翼的な思想に洗脳されてしまったという反応もあるらしい。

大企業の経営者が人種差別解消の象徴となった人物に賛同する、億万長者が大金を環境問題に資金提供する、何も悪いことではない。良いことのように見える。
しかし彼らはその裏でそのようなイメージアップ戦略により収益を伸ばし、経営者はとてつもない報酬を得ている。基本的に資本主義の最先端を走っていて、その資本主義が貧富の格差を広げているのにそのことには言及しない。
また守銭奴たちが大好きなアメリカの大富豪カーネギーは美術館のような文化施設、そして体育館のような運動施設、学校、そのようなものを個人で資金提供してたくさん残している。しかし現代の富豪たちはそのような婉曲的な行為ではなく、個人資産から直接社会問題へ資金を提供している。
このようなウォーク資本主義が逆に資本主義という制度を強固にしているということが解説されている。そのロジックを書くのはネタバレみたいなものなので書籍で確認してもらうしかない。

 

基本的にウォークという言葉を侮蔑的に使う人達は好きになれない。様々な社会問題を解決するべき態度には右も左も関係ないのに、ウォークというものが左派の人々に支持されているからといって彼らを毛嫌いする右派の人たちが嘲りの意味で使っている。右派は大抵が愛国者を名乗るものだが、愛国者なら率先して社会問題の解決に取り組むべきだろう。
また、企業、経営者たちに「政治に介入せず企業活動に専念しろ」という意見も分が悪い。今まで右の方向に経営者たちは熱心に政治介入してきているのだから。経団連なんてその最たるものだろう。
そして富豪や大企業が目覚めたふりをして裏で金儲けに勤しんでいるのもいただけない。結局彼らは資本主義を改善するつもりはなく、寄付金で良い身なりを手に入れているに過ぎない。
また、例えやっているふりだけでも実際に金を出しているのだからいいだろう、是々非々で捉えるべきだということも言われそうだが、卑しい人物が善行を為したとしてもそのことを賛美するするつもりはない。彼ならばその裏になにかあるのではないかと考える方が自然だろう。実際にウォーク資本主義によって彼らは収益を伸ばしている。ころっと騙されているようでは。

社会運動に理解を示しているように見えても彼らはその根本である資本主義と自分たちの収益システムは強固に維持している。そして、必要以上に収奪した資産から、本人には痛くも痒くもないような(でも一般的には巨額な)金額を差し出し尊敬を集める。そのような個人資産を集めることができたシステムに目を向けさせない為に。

論点のねじれた内容の本だったのでとっちらかった感想になったけれど、書名の副題に惑わされず読んでみて面白かった一冊だった。