グリーンブック

2019年、米国、ピーター・ファレリー監督作

60年代のニューヨーク、イタリア系の男はナイトクラブで用心棒として働いていたが、クラブの改装のために失業してしまう。そして紹介から黒人ピアニストが南部へ演奏旅行するための運転手としての仕事を得る。
男は黒人に対して偏見があったが、南部を旅行する過程で黒人が如何に差別され冷遇されているかを知ると共に雇い主のピアニストと親しくなることで考えを改めるようになる。
タイトルの『グリーンブック』とは黒人が旅行するためのガイドブックのこと。

www.youtube.com

 

人種差別を題材として描いたヒューマンドラマ。殺伐としたホラー映画ばかり観ていたので乾いた砂漠に雨が沁み込むように観た。

主人公のイタリア系の男を演じるのはヴィゴ・モーテンセンロード・オブ・ザ・リングでのスリムな剣士のイメージが強かったので、最初は誰だか分からなかった。
この男は、家の修繕に来ていた黒人に妻が飲み物を差し出すと、彼らが使ったグラスをゴミ箱に捨ててしまうような差別をする男だった。その男が黒人ピアニストの旅に同行することで黒人の置かれた環境や待遇を知り、そして黒人ピアニスト個人と親しく触れ合うことで差別や偏見に疑問を持ちそれを乗り越えるというお話になっている。

劇中で繰り広げられる小さな挿話が楽しい。

黒人ピアニストは育ちの良い男だが、イタリア男はそうではないから、車から紙コップを投げ捨てるような真似をするが、ピアニストはそれを許さずバックしてゴミを拾わせる。
また男は2ヶ月もツアーに同行して家をあけることから妻にせっせと手紙を書くが、学がないので頓痴気な手紙を書く。それにピアニストが文章指南してロマンチックな恋文を書かせるくだりはコメディとして楽しい。この挿話はラストシーンにもきいてくる。

差別や学の有り無し、育ちの良さ、クラシックとポップスなど二人の男には色んな差があって初めは互いの態度を認めないけれど、やがてそれが邂逅するという展開が観ていて気持ち良い。ラストのクリスマスの夜の場面には、ほっこりさせられる。

どこにでも差別主義者はいてインターネットにはそのような意見を吐き出して平然としている人が沢山いる。はっきりと差別主義者と言えるような人物でなくとも偏見を持っている人はインターネットだけでなくそこら中にいる。近所でも「金属ゴミを中国人が漁って持っていく」といった話をしたり、日本語がうまく話せない外国人の住人の悪い噂を広める人は幾らでもいるのだから。
そういう外国人を差別する人たちに共通しているのは、彼らのことを大抵は知らないことだ。個人的につきあいがない。

子供の頃には在日朝鮮人の子が近くに住んでいてよく一緒に遊んでいた。別に他の日本人と何も変わらない。小学校高学年の時に子供だけで映画を初めて観に行ったのもその子と一緒だったと思う。
働き始めた頃に一緒だった同僚は初めて付き合った女の子が在日の女の子だったらしく、その子とどんな話をしたか聞かせてくれた。彼女は自分が普通の会社に就職できるとは端から考えておらず、将来にあまり明るい展望を持っていなかったという話が印象的だった。
個人的に接してみれば誰でも人として良いところや悪いところはあって、それが国籍や生まれた場所のせいではないことが分かる。そういう経験がないから架空の悪い人物像を頭の中にこしらえて憎んでしまう。
個人と個人でつきあってみれば偏見や差別が何の根拠もない無駄なことで、人として尊敬できたり好きになったりすることがある。この映画でもそういうことが描かれていて、その方が絶対的に正しい。

ホラー映画ばかり観ていたので久々に素直に気分の良くなる映画だった。