ソウルガールズ

2012年、オーストラリア、ウェイン・ブレア監督

60年代のオーストラリア、先住民族であるアボリジニの姉妹は、カントリー音楽のコーラスグループとしてコンテストに出場する。しかしそこでは差別的な視線を送られる存在だった。
その場にいた売れないミュージシャンの男は、彼女たちの実力を見抜きソウルミュージックを歌うように勧める。彼女たちは、白人に育てられた従兄をメンバーに迎え入れてベトナム慰問ミュージシャンのオーディションを突破し、サイゴンへと赴く。

www.youtube.com
冒頭字幕で

オーストラリアの先住民アボリジニには1967年まで市民権がなかった。居留地へ集められ、人間でなく“動植物”の扱いを受けた。70年代には、肌の白いアボリジニの子供は家族から離され施設や白人家庭で育てられた。彼等は“盗まれた世代”と呼ばれている。

と出る。オーストラリアではこんなことがあったなんて知らんかった。

映画はその通りに、オーストラリアの差別的な政策によって翻弄されたアボリジニの姉妹を描いている。
カントリーのコンテストでは白人たちから白い目で見られて音楽を聞いてもらえない。従兄は白人家庭で育てられていて、親類家族から引き離されて暮らしている。そして出自を消し去るように自分の心をごまかしている。
そんな彼女たちの転機が、ベトナム慰問の為のオーディション。歌を披露した後にそれを審査する軍服を着た3人の内の黒人女性が「サイゴンで会いましょう」と言う。ここがとても格好良い。「合格です」ではないところが良い。アボリジニが歌うブラック・ミュージックを黒人が認めたと言う風に見える場面でもある。

ベトナムに行ってからは各地の慰問で歓待されショーも上手くいく。これはオーストラリアを脱出した場所に彼女たちを差別しない世界があるいう風にも読める。しかし軍人との恋やグループ内での諍いというドラマがあってこれもはらはらさせられる。

黒人女性グループの栄枯盛衰を描いた映画としてはシュープリームスをモデルとした『ドリームガールズ』という傑作があるけれど、それに比べると音楽映画を作り続けている米国には及ばないところがある。でも、その軽さが逆にコミカルでシリアスな状況を笑い飛ばすような面白さがあってとても楽しかった。

本作は実話を元にした物語で、モデルとなったグループ、サファイアズ(映画の原題は『The Sapphires』)の面々は、その後、オーストラリアでアボリジニの権利獲得の為に活動したということがエンディングで説明される。本当に偉い人たちだなあと思う。