カード・カウンター

2023年、米国、ポール・シュレイダー監督作

刑務所でカード・ゲームを覚えた男は、出所後は各地のカジノを渡り歩いて暮らすギャンブラーとして生きていた。
腕を見込まれ、スポンサーとギャンブラーをつなぐスカウトの女に大きなポーカーの大会に誘われるが、目立ちたくないという理由で誘いを断ってしまう。

男は、あるカジノで退役軍人の講演を見に行った場所で若い男に声をかけられ「奴に復讐しよう」と誘われる。男が刑務所に入れられた理由は、かつての上官だった退役軍人の男だった。

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アップリンク京都で鑑賞。

主人公の男は若者に復讐を諦めさせようとする。若者は大学を中退していて学費などの借金も背負っている。彼に大学へ戻って真っ当な暮らしをさせようとしてスカウトの女の誘いを受けてポーカーの大会に出場して勝ち上がっていくのだが…、というお話。

映像的に派手な場面はなく淡々と物語は進んでいく。でも、それがいい。アメリカのカジノやうらさびれたモーテルが舞台で、どこも少し寂しくて煤けた感じがある。カジノの名前がどれもこれも変わった名前なのはネイティブ・アメリカンへの補助政策として建てられたカジノだからだろう。
物語が進むと主人公が刑務所に入れられた理由が少しずつ明らかになる。少しネタバレになるが、戦争犯罪に加担したこと、しかし元上官は罪を償っておらず人前に出て講演などしていることが描かれる。
復讐にとりつかれた若者とそんな気持ちさえ超えてしまった男が相棒になってカジノを渡り歩く様は虚しくて寂しい。しかしそんな中でも若者とスカウトの女と次第に信頼関係が生まれてくる。

最終盤は主人公の男が爆発する。それまで冷静に着実にカードゲームを進め勝ってきた男は「理性を失ったプレイヤーは暴走する」と若者を諭していたけれど、彼自信が理性を失い暴走する。派手な爆発シーンではなく心理的な暴発が描かれている。
孤独で誰とも関わろうとせずに目立たず生きていこうとしていた男が、女と若者と知己を得て彼らを信頼し、関係が築き上げられることで人間性を取り戻していくというある種の成長譚でもある。

ポーカー大会には米国旗を模した衣装をまとって事あるごとに「USA!USA!」と騒ぎ立てる愛国者が登場するが、戦争犯罪を経験し、上官に裏切られた男からすればそのような愛国主義は無邪気で薄っぺらいだけだろう。そのような愛国者は本邦でも多く見られる。

戦争で荒廃した兵士の心が癒やされていく物語でもあり、壮絶な復讐譚でもあり、そのような物語を、抑えた筆致で描いた傑作でした。泣いた。

映画を見終わって、四条の藤井大丸で開かれている中古レコード市に寄ってきた。京都は祇園祭モード。