未来人サイジョー/いましろたかし

2020年から1970年にタイムスリップした漫画アシスタント一筋の男は、漫画家志望の若者と出会い『北斗の拳』や『デス・ノート』をパクった原作で一旗上げようとする。

 いましろたかし神様のストーリー漫画。味わいが深い。

物語としては上記に書いたような粗筋ではあって、その顛末、行き着く先はどこなのかという興味もあるのだけれど、いましろ漫画というのは、そういうものではなくてリズムというかグルーブというか雰囲気というかビート感というか、読んでいる間の心地を楽しむものだと思うのです。そしてそれが素晴らしく気持ち良い。

漫画家になろうと熱い志を持った若者の物語としても読めるし、もう未来に期待していない中年男の投げやりな気持ちを綴った話でもあるし、そこに衛星のように登場するサブキャラクターにも魅力がある。三流マンガ誌の重鎮である漫画家先生やそのアシスタント、編集者、主人公の姉など、なんでこんなにちょっとしか出てこないキャラクターも残念で愛おしくやりきれなさが充満しているのか。魔術だと思う。

華々しい劇的な展開はないし、終始投げやりというか諦めというか、明るい未来が待っているという期待感はなく物語は進むが、そういうのは少年漫画にまかせておけばいいのであって、もっと違う枯れた味わいというか、明るいだけでない心の機微が描かれていて、漫画の中で描かれている以上のふくよかな味わいがあると思う。いましろ作品ってそういうものだと思う。

いましろたかし巨匠による久々のストーリー漫画で期待と不安が交錯しながら読み始めたけれど期待を上回り不安を完全に払拭する出来だった。好き。