薬菜飯店/筒井康隆 著

神戸の路地裏にあった薬膳を出す中華飯店に入った男は驚愕の料理に出会うことになる。
表題作含む6編の短編と俵万智の『サラダ記念日』のパロディ『カラダ記念日』を含む短編集。

 

なぜか久々に筒井康隆を読んでみる。
そして筒井康隆はやっぱり滅茶苦茶だなと思う。
表題作は、神戸の路地裏にあった中華飯店で薬膳料理を食べた男が体のあらゆる毒素を吐き出して健康になってしまうというお話。
料理を食べる小説だから料理についての味覚の説明、見た目の描写、そのようなものが描かれている。しかしそこで主人公の男は料理を食べることにより体中のありとあらゆる不具合の元である毒気を鼻水、鼻血、排尿、排便、射精によって体の外に排出してしまう。食べ物についての描写と排泄の描写が同時に描かれているのに、料理は美味しそうに見えるし、排泄描写も徹底して汚いのに、どちらも生き生きとしていて両立している。寧ろデトックスとか毒出しといったスッキリ感さえある。滅茶苦茶だと思う。滅茶苦茶なのにちゃんと小説として不快感はなく逆に爽快感がある。本当に酷い。良い意味で。

『偽魔王』という小説は、ヤクザや友達から突き落とされて転落死した子供が悪魔になって復讐するお話だが、読みながら「このお話はどういう風に着地するのだろうか」と思いながら読んでいると最後の頁には

しかしこれ、変な話だなあ。作者はいったいどういうつもりでこんなもの書いたんだろうなあ。教訓もなければ風刺もない。単にスプラッタアやりたかっただけなのかなあ。

などという一文があったりする。滅茶苦茶だと思う。読者は怒ってもいいと思うが「筒井康隆だから」と思ってしまう。酷いと思う。良い意味で。

筒井康隆作品は中学生の頃に熱心に読んだ。小学校高学年で星新一にはまって日本のSFを読み進めていく上で出会って、中学男子にはその滅茶苦茶さアナーキーさが大好物だった。けれど筒井康隆が、初めて純文学として書いた『虚人たち』が、わけが分からな過ぎてそれ以来は距離をとってしまったのだった。『虚人たち』を再読してみなければならないだろう。分からない小説だったが、その分からなさが非常に強く記憶に残っているから。