THE FIRST SLAM DUNK

2023年、日本、井上雄彦監督作

バスケのアニメ。

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少し前にはてなブックマークで『人生で観ておくべき、日本映画ベスト50』という記事が話題になっていて、そのコメント欄に『THE FIRST SLAM DUNK』を挙げている方が数人おられた。
バスケットボールを描いたアニメーション映画が黒澤の『七人の侍』と並ぶものだろうか、などと思っていたが「世界映画史に残る」と言っている人さえいて「世界映画史は幾らなんでも大げさではないでしょうか」などとも思ったが、それほど熱く評価している人がいるのなら観てみたいという気になったのでした。

観る前は流石に
「幾ら出来が良いっていってもアニメでしょ?」
くらいの気持ちもあったのだが、鑑賞後はそんな気持ちが吹き飛んでしまった。凄く良い。映画として凄く良いし、アニメーションとしても凄く良い。熱狂的に褒める人たちがいるのがよく分かった。

アクションにおけるアニメーションがとても素晴らしくて目をみはるものがあった。そしてそれを捉えるカメラが実写映画ではできそうにない映像を作っていること。そして登場人物の背景が少しずつ明かされてどのキャラクターにも愛情を抱いてしまうような構成と脚本の妙も素晴らしかった。
原作漫画は読んでいないし「バスケって5vs5でやるんや」くらいのバスケ初心者だったけれど、試合の行方に最後までハラハラしたし、対戦相手の選手たちも「適役」という役柄ではなく強いライバルといった描き方でそこにも好感があった。
それと、バスケットボールの一試合だけのお話をこれほど最後までハラハラ、ワクワクさせて、どっちのチームも心のなかで応援してしまうような映画の作りに観終わってから物凄く感心したのだった。

昨今のアニメーションの技術レベルがどうなっているのか、熱心なアニメファンでないので知らないのだが、モーションキャプチャーで作られていることは観ていて分かったけれど、その動きが退屈なものになっておらず、寧ろその動きと絵に感動があった。

この記事によると

realsound.jp

アニメーションにするにあたってモーションキャプチャーのデータに様々な調整がされていることが記されている。たぶん、観客として自分が映画を観て感動したのは、その調整された部分ではないだろうか。実際のスポーツ選手の動きや技巧というものは、見ていて惚れ惚れするような場面もあるものだが、この映画でのキャラクターの動きはそれを超えた、作画による味付けによって現実よりもダイナミックで華麗で、アニメーションのメリットを最大限に生かした映画になっていたと思う。

アニメーションの一番大切な楽しさは動き方にあると思っている。誰だったか映画評論家の方が、ストップモーション・アニメーションの人形の動きにはフェティシズムがある、と仰っていて、それに大きく頷いたのだった。人形アニメーションに関する別ブログをやってるくらいなので凄くよく分かる表現だった。人形といった動かない者が動きアクションする。その動きの滑らかさとぎこち無さの間に丁度良いポイントがある。そういうフェティシズムがある。
セル・アニメーションに代表されるような絵が動くタイプのアニメーションにもそれはある。秒間何コマで動かすのかといったことからアニメーターの技量や演出家の好みによるものまで。
モーションキャプチャーで動きをトレースすればリアルな動きにはなるだろうが、それはアニメーションとしては少し退屈で、やはり嘘であっても映画的なダイナミズムや外連味は欲しい。だってそれがなければ実写で撮ればいいだけの話でしかないから。そしてこの映画にはそれがあった。それに感動した。

物語は大きなものではない。高校生が球技の試合で勝つか負けるか。世界の大勢には何の影響もない。けれど、そこに臨むプレイヤーたちは真剣でそのことの大事さも小さなエピソードの積み重ねで伝わってくる。とても身近な出来事で、でもそういう小さな出来事の積み重ねが実生活なのだ。飛び抜けた英雄のお話ではなく、生活者の映画といってもいいのではないだろうか。

エンドロールを最後まで見て監督が原作者だったことを知った。井上雄彦という人が凄い人だということを今更ながら知った。

世界映画史に残るかどうかは分からないけれど、凄く良いアニメーション作品で、優れた日本映画の一本だということは確実に思った。所詮アニメでしょ?みたいに思ってたことを反省します。ごめんなさい。