愛国者に気をつけろ!鈴木邦男

2023年、日本、中村真夕監督作

新右翼、右翼民族派の論客で故人となった鈴木邦男の足跡を辿るドキュメンタリー。

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大阪、十三の映画館、第七藝術劇場にて鑑賞。

2019年に、こんな話題があった。

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女子サッカーW杯フランス大会で、アメリカ代表の連覇に貢献し、大会MVPと得点王に輝いたミーガン・ラピノー選手。
トランプ政権を批判する発言などで注目されてきたラピノー選手に対して、日本のプロ野球で活躍するアメリカとカナダ出身の選手たちが「そんなにアメリカが嫌いなら出て行け」「同感だ」とツイートし、一部で批判の声が上がっている。

この話題に関してこんなブックマークコメントを残した。

「そんなにアメリカが嫌いなら出ていけ」女子W杯優勝のラピノーを批判、プロ野球選手が弁明

愛国心というものは国土と文化と同胞を愛することであって、為政者を愛することではありません。

2019/07/12 20:18

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こういう考え方は間違っていないと思っている。
「為政者」ではないが、自分は天皇制を支持している。皇族の方々が市井の日本人ならば当然享受している自由を持っていないことには心を痛めているけれど。
でも天皇制を支持しない人たちのことを「反日だ」などとは言わない。彼らは天皇制がなくなればこの国は良くなると思っているのだろうから、この国を良くする方法は何なのかを考えている。その方法が自分とは相容れないだけでしかない。
愛国者を名乗る人たちは共産党を毛嫌いしているが、共産党の支持者は日本を良くするためには共産主義、日共の推し進める政策が適していると思っているだけでしかない。こういうことを言うとコミンテルンのことを持ち出して、日共は共産主義を広めるソヴィエトの出張所であり日本のために活動しているのではない、みたいなことを言う人がいるが、もうすでにソヴィエト連邦という国はこの地球上にない。
天皇制の問題と同じで、この国を良くする為の方策が自分とは違うということでしかなく、彼らも真剣にこの国のことを憂いて活動している。その姿は愛国者と言って良いと思う。
昨今の自称愛国者が批判すべきは、利己的に振る舞って社会がどうなろうと構わないと思っている人たちだろうし、この社会やこの国の政治に無関心な人たちをこそ批判するべきだろう。選挙権を行使しない人たちを批判すればいいのではないだろうか。知らんけど。

こういう考え方を持っているのは、野村秋介氏と鈴木邦男氏の著作に若い頃に多く触れてきたからだと思う。彼らは右翼民族派新右翼と呼ばれた人たちだったが、自分からすれば新右翼の主張こそが右翼の目指すべき思想だと思えた。勿論細部では、違和感もあって、野村秋介氏が暴力団員の擁護を訴えて活動していた時期には「?」マークが頭の中に飛び交っていた。でも今は少し理解できる。心情的にはやはり違和感があるけれど。

 

鈴木邦男さんは、令和5年1月11日午前11時25分に79歳で亡くなられた。
映画は晩年の彼にインタビューし過去の話を聞き出していく。そして親交のあった人たちが鈴木邦男さんの人柄を語り、その実像を描き出していく。
映画の中で繰り返し語られるのは、鈴木邦男さんが違う意見を持つ人たちの意見を聞くために実際に会いに行き行動する姿勢だ。なかなかそういうことは出来そうでできない。
自分は大阪維新という政党が非常に邪悪なものだと思っているが、彼らの意見も聞かなければ不公平だと思っていたから橋下徹松井一郎、吉村洋文のツイッターをフォローしていたが、精神的な健康が確実に削られてしまうので、そういうことは止めてしまった。それくらい精神的にきついことだけれど、鈴木邦男さんというのはTwitterでフォローするようなしょうもないことではなく、実際に会って話を聞くということをずっとやっていた。凄い人だと思う。
極左過激派である東アジア反日武装戦線に心情を寄せたことも語られていて、そのことで既存右翼から批判されたことも描かれている。自分も松下竜一氏の著作で東アジア反日武装戦線・狼のことが書かれた『狼煙を見よ』を読んで感銘を受けた口なので、そういうことにも共感した。
暴力を許さないこととテロリストに対する興味や関心を持つことは別だと思っていて、何が何でもテロリストの存在を封印し広めないことこそがテロに屈しないことだなどと言われるようだが、自分はそうは思っていない。英雄視するのも間違っていると思うが。
昨日は岸田首相が爆発物で襲われたという事件があり、鈴木氏が存命ならどんな風な考えを持つだろうかということも思いながら映画を鑑賞した。

映画の後で監督と香山リカさんのリモート・トークがあった。お二人共女性なので鈴木氏の人柄を語るときに男性としてのチャーミングさを語っていたと思う。男に尊敬される男は女性にも魅力的なのだろう。というか、人として立派な方だったのだと思う。


当日は雨だった。映画館のある十三は阪急電車ターミナル駅で飲食店や飲み屋の多いところだ。少し雨の中を散策すると、狭い路地の両側に並ぶ店の中にはお酒と食事を仲間たちと楽しんでいる人たちが沢山いた。こんな風に週末の夜を楽しむことが出来る人が一人でも多くいることが、世の中が良くなることなのだ。別に酒を飲むだけでなく、家族といつもの夕食を囲むことも、一人でゆっくりと過ごすことも、その人にとってそれが良ければそれでいいのだ。
限られた人だけが豊かさや安定した生活を享受するのではなく、自分と考えの合う人だけ幸福であればいいと思うことでもなく、ましてや自分と考えが違う人間を攻撃したり排除しようとしたり、首相や与党の政治家を批判することが反愛国的な行動でもない。同じこの国の同胞の、一人でも多くの人が安楽で幸福な時間を過ごすことができるように願うことが愛国者の本当の姿であり、そういうものには右も左もない。そういうことは鈴木邦男さんに教わったのだ。