定本レッド 1969-1972/山本直樹

連合赤軍の関連事件を描いた漫画作品。全4巻。

 

おぞましい物語。

残酷で残虐で残忍、卑劣で劣悪で醜悪、一切の救いはない。そして如何なる言葉で表現してもその地獄を表現するには足りない。連合赤軍の山岳ベース事件とはそういうものだ。

極左過激派であった連合赤軍に属する若者たちが、市街での警察の捜査から逃れるために山間に籠もるが、その場所で仲間を「総括」と称してリンチし、殺していった事件がこの漫画の山場になる。

高校生の時に『兵士たちの連合赤軍』を読んだ。著者は植垣康博。漫画『レッド』の中では岩木という名前で登場する。
読み始めると恐ろしくてたまらなかったが、それでもページをくるのがやめられなかった。これほど恐ろしい書物を生まれてこの方読んだことがないと思った。本当に心の底が寒くなってしまった。
そしてこの漫画作品でもその衝撃はあるし、それ以上のものもあった。

山岳ベース事件の中で登場する北(森恒夫)と赤城(永田洋子)が死ぬほど憎い。彼らは国家権力に抵抗する活動家だったはずなのに、彼らの組織の中では権力として居座っている。北が総括と称して無理問答を繰り返す場面では、総括の対象者が如何なる言葉を返しても、その判定は北の裁量によってしか判断されない。法も論理もなく、組織トップである個人の考えに沿わなければ殺されてしまう。独裁でしかない。そして、そんな残虐な指導者に従ってしまう人たち。その末路は悲惨でしかない。

ナチスのやったことは、人間が陥る愚かさや残酷さの多くを表していて、彼らのやった失敗の数々は負の教訓になる。そして連合赤軍の山岳ベース事件も人が組織や社会を作り、その中で生きていく時に起こりうる残酷性が詰まっている。
インターネットには「これが最良の解決方法だ」と自身の考えをひけらかす輩がいるが、彼らは、その考え方の延長線上に山岳ベース事件のような末路があることを想像できないでいる。政治家でさえそのようなことを言う輩が幾らでもいる。でもこういう漫画を読んで恐ろしい事例を知っていれば、そのような幼稚な考えに陥らずに済むだろう。
そして学校や会社や地域で人が集まって一緒に何かをする時に、山岳ベース事件にあったようなことの端緒が潜んでいる。特異なできごとではなく身近な場面に残酷さの種のようなものはある。

全4巻の作品で山岳ベース事件が本格的に描かれるのは3巻から。読んでいる間は動悸がして本当に恐ろしく辛いといってもいいものだった。
言葉でその状況が描かれるものと違って漫画というビジュアルで描かれることの衝撃は大きく、暴力描写の苛烈さは目を覆いたくなるようなものだった。そして、その中に組み込まれていく人たちが全て描かれているが、人間の所業だと思えないことを行った彼らにも一人ずつに表情があり、色んな感情が沸き起こる。

とても陰惨で読後感は最悪なものだが、その重さは凡百の漫画作品とは比べ物にならない。こんな作品を描ききる漫画家の胆力とはどういうものなのだろうかとも思う。
日本の漫画史に残る超重要な漫画作品だと思う。

期せずして学生運動の時代の書籍iを続けて読んでいて、少ししんっどくなった。何か明るい罪のないものが読みたい。