67歳の新人 ハン角斉短編集/ハン角斉

衝撃作『山で暮らす男』で新人賞を受賞し、業界を騒然とさせた67歳の新人・ハン角斉。漲る初期衝動と独自の世界観でプロも称賛する氏の読切6編を収めた奇跡の初単行本!

 

どうやってこの漫画に出会ったのか忘れてしまったが、なにか話題になっているという記事を見掛けてのことだったと思う。大して熱心な漫画読みではないのだけれど、やはり今の面白い漫画は読んでみたいと思っているから。しかしWebでの試し読みなどは色々と見てみるのだけれど、今風の絵柄の漫画には今ひとつ馴染めなくて興味をそそる漫画にあまり出会えないでいる。
書店に並んでいなかったので取り寄せを注文すると、注文が重なっていて現在入荷し難くなっている、少しお時間がかかるかも知れません、と書店員さんに告げられた。そんなに人気があるとは知らなかった。

読んでみると奇妙な雰囲気の作品が並んでいる。残酷なようで純粋なようで下世話なようで物悲しく稚拙なようで巧妙で明るく楽しく明日への活力が湧いてくるといった漫画ではないが異様な読後感があって、ちょっと他所では味わえない、つまりはこの人にしか描けない漫画だと思う。
こういう奇妙な感じを味わうのが好きだ。

善人の善行が報われる、善き人たちの感情がすれ違いながらも共感が生まれ何事かを成し遂げる、若しくは悪が報いを受ける、そういった物語も確かに楽しいし心が晴れやかになる。そういう物語を読みたいと思うこともある。
しかし、きっぱりと善人とは言えない、悪だと断罪もできない、そのような複雑な人物が登場する物語であったり、そもそもそんなことに主題はなく、辻褄が判然とせず物語は浮遊していて、ただ悪夢のように始まり終わる、そんな作品も好きだ。
そのようなもので一番好きな漫画は、つげ義春の『必殺するめ固め』。作者が不安神経症という精神病を患っていた頃の作品で、悪夢のような作品が並んでいる。つげ義春の悪夢的作品というと『ねじ式』が有名で、あれもとても好きな漫画だが、『必殺するめ固め』には『ねじ式』に見られるような洗練がなく、それ未満の荒削りな狂気が宿っている感じがする。花輪和一蛭子能収の漫画にも同じ雰囲気を感じるし、アウトサイダー・アートといったプロの芸術家ではない精神病者や浮浪者、囚人や世間から遊離した奇人のような人が描いた絵画にも同じものを感じる。
ハン角斉氏の漫画にも同じような感じがある。人物の描写も少し花輪和一に似ている気がする。

なぜそのようなものに惹かれるのかは分からない。でも音楽でも耳馴染みの良いメロディーが奏でられるポップスも良いと思う時もあるが、なんとも言い難い、言葉にできない、音楽でしか表現できない情感が醸し出されるものに好感を持ってしまう。何もかも言葉で表現できるのなら音楽を演奏する必要もないし漫画で表現する意味もないのだから。