裏面 ある幻想的な物語/アルフレート・クビーン 著

ドイツに住む画家は、見知らぬ男の訪問を受ける。彼が言うには、画家の同級生は富豪となり中央アジアに夢の国を建設している、そしてその国にあなたを招待したい、とのことだった。画家はその申し出を受けて妻と夢の国に移住するが、その国の崩壊を目撃することになる。

 

著者は1877年チェコに生まれた挿絵画家で、1909年に発表された小説がこの『裏面』となる。

町をひとつ自分で作ってみたいと思ったことはないだろうか。プラモデル、粘土、絵、嘘の地図、そして文章、そんな何某かの方法で町を作ってみたいと思ったことがないだろうか。俺はある。CADで偽の地図を作るのが面白いと思ってやってみたことがある。
主要駅があり、そこから路面電車の路線が延びている。町の中心部には川が流れていて、住宅地区、商業地区、工業地区、そして農地と分かれている。街路はきっちりとした碁盤目ではなく、入り組んでいる。路地を設計するのも楽しい。
著者は、そんな箱庭趣味を小説の形でやってみたのではないだろうか。もしも自分にあらん限りの富があったなら、理想の町を作るとしたら、そんな夢想を小説の形で具体化したのだろう。
そして、そのようなものが出来上がったらどうするだろう。手間暇かけて作り上げたものをじっくり鑑賞するのも良いだろうが、一番面白いのはぶっ壊すことではないだろうか。さんざん苦労して作り上げたものを一瞬で破壊する時の快感を味わおうとしたのではなかろうか。

小説の中では町の崩壊が延々と描かれる。そしてかなりグロテスクな描写もある。動物がやってきて、次に小動物と虫がやってくる。疫病も流行し人々のモラルも低下する。暴動が発生し軍隊が出動する。建物は崩れ落ちて文字通り町は崩壊する。
今どきの派手な映画を見慣れた身には、スペクタクルという点では少し物足りないけれど、これは日本でいえば明治時代に書かれた小説なのだ。そう思うと、なんと派手な破壊衝動を炸裂させた作品だろうと思う。

正直言うと前半はとても退屈だった。少し読んでは止め、別の本を読んだりして、まったく文章も頭に入らなかった。しかし後半は破壊と崩壊が描かれていて心地良い。まだこの時代は世界に明るい希望を持っていた時代ではないかと思うけれど、こんなに破滅的なことを描いたのは、この時代ならば画期的だったのではないだろうか。

何度も「もう読むのをやめてしまおうか」と思うも「ここでやめればもう二度とこの本を手にとって読み始めることはないのではないか」と思い意地になって読み進めた。
奇妙な一冊を読んだ。