アメリカ大陸のナチ文学/ロベルト・ボラーニョ 著

南米で活躍した詩人や作家を紹介する人物辞典のような内容。ただし、全て架空の人物である。

 

各編は、名前と生年、没年が最初に記され、その人物が詩人や作家としてどのような履歴を持っているかということが書かれている。小説としての文章ではなく、淡々と伝記を綴るような文章で。
書名にもあるナチとの関わりはそれほど濃厚ではないが、少し調べると、スペインは第二次大戦時に中立ではあるものの枢軸国にも協力的だったことを知った。子供の頃にナチスの戦犯がイスラエルモサドによって南米で見つかった、というようなニュースがあったことをうっすら覚えている。

架空の人物についての伝記、というとまるっきり嘘で出鱈目だと思ってしまうが、小説というものもそういうものだろう。本書は物語として記述された本ではないから、その違いでしかない。
感動を煽ったりせず淡々と実際に起ったかのように嘘を列記している。その読後感は小説を読見終えた時と幾分違う。各編を読み終えた後に「でもこれは嘘のはなしなのだな」と思い出したりする。南米の詩人についての虚実を判定するような知識はないから。

不思議な読後感のある書物で楽しんだ。
残念なのは、読み始めて途中まで読んだところで、どこかに本を紛失して続きが読めないままになっていた。最近になって部屋の中で見つかってようやく読み終えたけれど、見つかった時に挟まっていた栞よりも前の内容は全くといっていいほど覚えていなかった。中途半端な読書をしたことが悔やまれる。