神秘列車/甘耀明 著

政治犯の祖父が乗った神秘列車を探す旅に出た少年が見たものとは――。台湾の歴史の襞に埋もれた人生の物語を劇的に描く傑作短篇集!

著者名はカン・ヤオミン。台湾文学の著者による短編集。

以前『歩道橋の魔術師』という台湾文学の本を読んだ。どんな感想を書いたのかと思って以前の記事を読み返してみるとどうもピンときていないような感想だった。
本作『神秘列車』を読んだ感想も似たものになるかも知れない。中国のノーベル文学賞作家が感心したという書き手らしいので文学的評価の高い作家なのだろうけれど、自分には少しよく分からなかった感じもある。
台湾というと東アジアの国で、西洋やアラビアのような全く異なる文化圏ではなく、近しい文化のはずだが、色々と台湾のことを知らないことも多いということに気付く。
収録先品の『伯公、妾を娶る』に出てくるが、「廟」というものが台湾人にとってどういう存在なのか今ひとつよく分かっていなかったので、何の話なのかがよく分からなかった。他にも色んな単語・名詞がでてきて、それぞれに注釈がついてはいるのだが、頭の中でイメージが湧いてこないことも多々あった。情景描写の中に姿形が想像できない物が記述されるとストレスが溜まってくる感じがある。
英米文学などを読んでいてもそれほど困ることは無い気がするが、それは映画などで視覚的にその姿をを目にしているからだろう。そう思うと台湾の情景といってパッと思い出す映像があまりない感じがして、それくらい台湾のことを知らなかったのだということに気付く。ずっと以前に『悲情城市』という映画を見た時にもよく分からなかったが、あれも台湾の近代の歴史を知らなかったからだった。でも外省人内省人という言葉はその時覚えた。
解説を読むと台湾には言語が複数あり、民族的にも先住民族がいたりと複雑であるらしい。そのようなことも知らなかった。

『葬儀でのお話』は家族の話なので、こういう小説は文化の違いはあっても共通する感情があるので、そこで描かれている情感が感じられるものだなとも思った。詩的、幻想的な表現や情景がそこここに見られ楽しめた。

近年、文学作品の中でも外国文学は特に売れないものであるらしい。翻訳者だったか編集者だったかが、今のように外国文学が売れない状態が続くと本が出せなくなり、翻訳、出版される作品点数が将来はもっと少なくなるかも知れない、という懸念をどこかに書いていた。外国文学を読むのには、ある程度その国の知識や習俗に関する知識がなければ戸惑うこともあるから、そういう点で好まれないのかも知れないし、評価の分からない、著者名に馴染みのない作品に手を出そうとしないということかも知れない。しかし分からないなりに感じる情感というものはあるもので、それは理解できるものを読んでいるときには感じられないものだから、分からないと思いながらも感じるその不思議な感情は大切にして良いのではないかとも思う。理解できる範疇のものしか読まないというのでは世界が広がらない気もする。