邪宗門/高橋和巳 著

明治期に興ったある新興宗教の勃興を、戦前、戦中(開戦前夜)、そして戦後という時代の流れの中で描く小説。

邪宗門 上 (河出文庫)

邪宗門 上 (河出文庫)

  • 作者:高橋 和巳
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫
 

 

邪宗門 下 (河出文庫)

邪宗門 下 (河出文庫)

  • 作者:高橋 和巳
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫
 


恐らく人生の中で忘れずに記憶される小説のひとつになったと思う。

新興宗教とそこに集う人々を描いた群像劇と言えば簡略すぎるかもしれないが、概要としては間違っていないと思う。登場人物たちが、教団が国家に弾圧される中で日々の生活を倦み、そして信仰とは何なのかを自省したり討論したりする描写には、この思考も独白もすべてたった一人の作家の頭の中から生み出されたのかと思うと畏敬の念さえ湧く。裏表紙の宣伝文句には「日本が世界に誇る知識人による世界文学」とあるが決して大げさな文句ではないことが納得させられる。

どの登場人物も魅力的で、悪人は誰ひとりとしておらず、皆一様に時代の波に揉まれて苦しい生活をしながら宗教人、信徒として正しく生きようとしている。そういうのは時代が現代であっても信仰心こそ希薄なれど庶民に変わらぬ態度であるように思う。

作者のあとがきには

この作品の準備期間中、私は日本の現存の宗教団体の二三を遍歴し、その教団史を検討し、そこから若干のヒントを得た。とりわけ、背景として選んだ地理的環境と、二度にわたる弾圧という外枠は、多くの人々にとって、ああ、あれかと思われるだろう類似の場所および教団が実在する。

と書かれている。この「あれ」とは大本教だろう。京都の亀岡や綾部辺りから興った大本は国家から弾圧された歴史もあるし、教祖の出口王仁三郎が著名だ。Boredomesの山塚アイの家が大本の信者であったと聞いたことがあって少し興味があって調べたことがある。
本書に登場する教主も行徳仁二郎という名前であることから、よく分かる。が、あとがきにはモデルとなった教団と小説は別物だとも書かれている。

最終盤の展開はオウム真理教やハルマゲドンを渇望するキリスト教原理主義者を想像させる。しかし今2021年に読んだからそう思うのであって、この作品は60年代に書かれている。
作者は信仰宗教団体の成長を思考実験したものがこの小説であると書いているが、その思考実験ははっきりと未来を予見していたと言わざるを得ない。

もしこの頁を読んでいる人がいれば、私の拙い感想文など読まずに一度この本を手にとってみてほしい。冒頭から傑作であるということが分かるから。凄い小説を読んだ。