マチネの終わりに/平野啓一郎 著
世界的クラシックギターの名手の男、著名な映画監督を父に持ちフランスの報道機関に勤める女、2人が出会い心を通い合わせるが、やがて別々の道を歩むことになる。
以前、単行本が出た頃だと思いますがtwitterのタイムラインには本作の賛辞がよく流れてきた。よほど面白い作品なのだろう、とは思っていたが、恋愛小説なんでしょう?という気持ちもあって読まずに過ごしていた。
最近、映画化されたということもあって、書店では文庫版が平積みされていて、平野啓一郎という名前は知っているけれど作品を読んだことがなかったことがないなあ、と手にとってみたのです。
パリ、ニューヨーク、東京とお洒落な街で繰り広げられる男女の恋愛譚ではあるけれど、それぞれの社会生活や職業人としての考え、そして家族の一員としての自分、それらが世界や社会情勢と繋がっていることを思わせて、ただの恋愛小説ではない重厚感がありました。
主人公の男女は、お互いに40代前後という年代で、それぞれの思考を辿る描写は大人のそれそのもの。自分の仕事を深く見つめて考えて行動してる。それは市井に生きる自分達にも通ずるものがある。でも恋愛に陥るところはそういう思考ではなくて感覚が作動していて、そういうところは、恋愛でなくとも、どんな大人にもあることなので身につまされる感じがする。
映画でも小説でも滋味深いものというのは、軸となる物語にまとわりつく様々な要素が仕組まれていたり垣間見えたりするもので、それは作者が意図している時もあるだろうし、意図せず滲みだす時もある。でも小説の場合は作者の設計思想によって構築されていて、それは仕組まれているもので、そういう意味で本作は凄い小説であるなあと思う。
初めての平野啓一郎だったけれど、今まで読まなかったのを大いに反省しました。