ELLE

2016年、フランス・ドイツ・ベルギー、ポール・バーホーベン監督作

ゲーム製作の会社を経営する社長の女は自宅で何者かに強姦される。その後もレイプ犯と思われる人物から度々不審なメールが届く。が、彼女は事件のことを警察に届け出ようとしなかった。

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色んな人物が登場する。
・息子とその婚約者
・元夫とその彼女
・母親とその彼氏
・親友とその夫
・隣人の銀行員とその妻
・優秀だが意見の合わない部下と従順な部下
・そして大量殺人で服役中の父親

主人公と彼等の間で様々な事件や出来事が起こる。
・主人公は自宅で覆面をした男に侵入され強姦される。
・親友の夫と主人公は不倫関係にある。
・年老いた母親は若い男と婚約しようとする。
・息子は母親の支援を受け結婚しようとするが、婚約者は主人公とそりが合わない。
・元夫は大学院生の女性と親しい関係になる。
・強姦魔から彼女を監視しているかのようなメールが度々届く
・主人公の顔が貼り付けられた女が怪物に強姦されるゲーム動画が社内に一斉送信される。
・ゲーム動画の発信者を見つける為、社員に不法な調査を依頼する。
・主人公は隣人の銀行員の男の姿を盗み見ながら自慰にふける。
・年老いた父親が仮釈放の申請をし、世間で話題になる。


性的に背徳的な事柄が主人公の周りで巻き起こり、そしてその幾つかは主人公自身が巻き起こしているものになる。
しかし彼女は、何にも動じない。強姦されたことでさえ友人達にあっさり語り、さばさばしている。強姦魔に対しても警戒はしているが、怯えてはおらず、淡々と自衛手段を整えることで対処している。
そんな主人公の行動を、自立した女性を描いた映画、と評する向きもあるようだけれど、自立しているというよりは超人的な性格と行動力を持った人物を描いていて、ある意味幻想的でさえある。

アメリカ製のスーパーヒーロー・ヒロインを描いた映画が昨今は流行していて、彼等は何かしらの悪と戦っていたりする。そこでは超自然的であったり超科学的な力を持つものがその力を行使して世界を揺るがす大事件が起こり、それを解決する為にヒーロー、ヒロインが活躍する。

本作では、現代を舞台としていて登場人物たちはよくいる人々、というありふれた背景の前で、少し風変わりな事件が頻発するのを、外見も地位も人としての能力も人並みであるはずの主人公の女性が、特殊と言えるほどの強靭な精神力で身の周りに起こるインモラルな出来事と戦う映画になっている。バーホーベン流のスーパーヒロインを描いた映画のように見える。
映画を観ている間、入り組んだ人間関係と小さな事件が頻発する展開に目が離せなかった。強姦魔の正体は映画の半ばで露見するが、それでも興味は失われず、寧ろその後にどうなるのかの方が気になった。

バーホーベンは1938年生まれなので本作監督時は78歳のはず。その歳でこれだけエネルギーに溢れた映画を作れることに驚くしかない。少し前に観た『ブラック・ブック』も傑作だったけれど、晩年になってバーホーベンは乗りに乗っているという感じがするが、それ以前は乗っていなかったかと言えば、乗りに乗って乗り過ぎてしまって『ショーガール』で大失敗したとも言えるので、バーホーベンはずっと最高だったのかも、という気がしないでもない。