カンボジアに10年赴任していたフランス人神父の著者が、1975年のカンプチア共産党による首都プノンペン陥落を経験し、その後カンボジアを脱出した難民による聞き書きからポル・ポト政権の実状を報告する本。
こんなニュースがありました。
営業してると通報500件、大阪 支援限定、厳しい経営事情 | 共同通信
コロナウィルスによる自粛要請に従っていない商店があると市民からの通報が寄せられているというもの。
それに続いてこんなニュースも
大阪府知事、休業要請応じない施設公表へ…今週中に(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
休業要請に従わない店舗を密告する市民がいるというニュースと、それを府知事が諌めるどころか利用して公に掲げ見せしめにしようとするもの。
2017年には、自民党の今井恵理子さんが「批判なき選挙、批判なき政治」という迷言で物議を醸しておりました。
最近の新型コロナの影響で、SNSでは
「この非常時に政権批判などせずに国民が一体となって事態を乗り切ろう」
みたいなことを言ってる人もちらほら見掛けます。同じだと思います。
密告とその奨励、そして処罰。
組織に対する批判を許さない姿勢と批判する者を排除する姿勢。
こういうの全部ポル・ポト政権下で試されてる。
1975年にカンボジアの首都、プノンペンを陥落させて政権の座に就いたカンプチア共産党とそのトップにいたポル・ポトは、以後原始共産制的で過激な革命を全土で行いましたが、その国家運営は目に余る惨状でした。
革命前の政権で要職、兵士、公僕だった人間をスパイによってあぶり出して監禁と拷問で虐殺した。共産党政権に批判的な人間、そして知識階級は批判勢力になりかねないと学者、医者、技術者を同じようにスパイの密告によって探し出してこれも処刑した。人々は自分の周りの誰がスパイかも分からず戦々恐々として恐怖政治の元で誰も本当の事が言えず誰も信じられなくなった。そして国家の為に国民の自由を奪い強制的な重労働に従事させた。それらはカンボジアから逃れてきた難民がそう証言している。
実際に人を殺すのとは違うし、言論と直接手を下すのは別。そうとも言えるが、上のニュースに登場する人たちは、カンプチア共産党の施政下でオンカー(組織)の為と言って従わせ密告させ処刑した人達と根は一緒です。
でもそんな風に振る舞ってしまう欲求は誰にでもある。
自分は行政の要請に従って外出自粛しているのにあの店は営業していつも通りにしている、不公平だ、誰かに言いつけてやろう、そんな気持ちになることはある。
誰でも批判なんてされたくない。批判ばかりしていないで一旦我慢して皆で一つの目標に向かっていくことで良い結果が生まれることもある。私は我慢しているのに誰それは不満ばかり、なんてのが気に入らないこともある。
こんなことは誰にでもある。でもそういう人の弱い心を利用する奴らがいることをポル・ポト政権の時代のカンボジアから知ることができる。
カンプチア共産党、ポル・ポト政権の施政というものは自分の理解しているところでは無邪気な理想主義なんだと思う。毛沢東主義の過激な実践といった難しいことを言わずともそう言ってしまえる感じがある。
ネットの政治の話題で「良い事思い付いた、こうすれば万事解決じゃない?」みたいなことを言うのはいいが、その行き着く先は、全体主義だったりポル・ポトの亜流だったりするのも無邪気でしかない。しかしその無邪気さを脱していないのか利用しようとしているのか知らないが、そんな政治家や首長が実際にいたりするので現代の日本ってもの凄く悲観的な状況だとも思う。
本書は、ポル・ポト政権のことを知るのに古典的な本らしく、日本版の刊行は1979年。当時のカンボジアは、ほぼ鎖国状態で国内の情報が殆ど知られていなかったことからも、当時としてよくこれだけカンボジア国内の情勢を記録したなと、そういう意味でも感心させられる書籍でした。