悟浄出立/万城目学 著
西遊記に登場する沙悟浄を主人公に据えた『悟浄出立』他、中国古典を題材にした短編小説集。
序文に、著者は中島敦の『わが西遊記』を青年期に読んで、その続きが気になっていたことからプロの作家になって『わが西遊記』の続きを書くつもりでできあがったのが『悟浄出立』になったということが書いてある。
他に題材にしているのは『西遊記』『三国志』『史記』といった中国の古典。著者は青年期にこれら中国の古典に熱中したということがこれも序文に書かれてある。
と書いたけれど、上に書かれている書物をどれも読んでいない。『三国志演義』は有名なクラシックなのだから読んでおこう、と思って手を付けたけれど頓挫したままになっている。ずっと戦争のお話で、そういうものだと言われればそうなのだけれど、映画『仁義なき戦い』シリーズをずっと続けて観るのと同じくらいしんどい。登場人物も憶えきれなくて。
こういう言い方が正しいかどうか分からないが、この短編集は中国古典の2次創作なのだと思う。
『悟浄出立』が分かり易いけれど、三蔵法師に従う家来の中では一番地味な沙悟浄を主人公に据え、彼が仲間をどう見ているか、そしてその仲間たちの中で自分の立ち位置はどんなものなのかを内省的に考えるというお話になってる。『西遊記』の二次創作としか言いようがない。でも歴史改編もののSFはみんなそうとも言えるかも。
ただ『西遊記』くらいなら知っているが、他の中国古典は読んでいないので、お馴染みのあの登場人物の本編では描かれなかった部分、を提示されても元ネタを知らないので歯がゆい感じがする。古典の教養がないというのはこういうところで損をするのだなあと思う。
ただ、2次創作とは言え、元ネタを知らなくてもそこそこ面白い。いや、そこそこどころか結構面白い。面白いがゆえに元ネタを知っていればもっと面白いはずなのにという悔しさがまた湧きでてくる。
万城目学さんの小説は『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』など初期の作品は読んでいる。明るく楽しくちょっと不思議でいて読後感が良い作品という印象だったけれど、本作は悲劇とちょっとした苦みも描いて、少し著者の印象が変わった。と同時にちゃんと追いかけて新しい作品も読んでおかなければ古いイメージのままでいてしまうなあ、と思ったのでした。