許永中
2冊の本を読みました。
90年代初頭に発覚した巨額経済事件であるイトマン事件で、その中心的な役割を演じた男が許永中です。氏は、大阪中津に在日韓国人の二世として生れ、荒くれ者の青年時代を過ごした後、様々な事業を起こし、結果的にイトマン事件で逮捕されます。保釈中に逃走するも再逮捕され、韓国で刑期を終えた後、今は韓国にいます。
1冊目の『海峡に立つ 泥と血の我が半生』は許永中本人による自伝。これを読んでいると暴力団関係者の名前が頻繁に出てくる。許永中自身はどこの暴力団にも加わっていないということだが、大物ヤクザたちと知己を得、交流していることが分かる。自伝では、暴力団の大物をバックにして何かを為したということは書かれていないが、彼等の人脈や情報、そしてバックに暴力団がいるという威勢を借りて様々な仕事をやり遂げているのだろうと想像できる。イトマン事件については絵画を通した融資であって何も悪い事はしていないという主張になっているが、自伝で自分を悪く言う人はいないのだからそういうものだろうと思う。
2冊目の『許永中 日本の闇を背負い続けた男』はノンフィクション・ライターによって許永中の人物像とその活動履歴を浮き彫りにする本。許が様々な会社を売買したり、同和関係の仕事で収益をあげていったことなどが描かれている。大きな資金をバックに経済的な揉め事を解決する剛腕のフィクサーとして暗躍していった事が描かれ、イトマン事件についても美術品を担保に商社から法外な資金を提供させていたことなどが描かれている。
両方の本を読んで、著名な政治家や経済人の名前が沢山出てきて、そこで暗躍する人たちが蠢いているのが分かる。お金の匂いのするところにこういう人たちは群がるのだと言う事が分かってうんざりする。
許永中自身は青年時代から番長気質の人がそのまま大人になっていった印象があって、表舞台に立つことなく陰で暗躍することに美学を持っていたようだが、それも実利を得られることが前提の上だろう。
登場する人物が皆、金が至上の目的でそれを得ることが力になるという考えの人ばかり。許永中で言えば幼い頃からごんたで腕力では誰にも負けない育ち方をしたから大人になって更に力を得ようとすればそれはやはり金なのだろう。どちらも力そのものだから。
でもそういう人は世の中に沢山いる。なぜ金が力なのかと言えば金で人を動かすことが出来るからで、それが実現するのは、金を恵んでくれる人間に必要以上にへりくだって追従する人がいるからに他ならない。金持ちに必要以上の憧憬の視線を送る人は金を持って同じように人を動かしたいという欲望を持っているから彼等に憧れるのだろう。生活の安定は誰しも求めるものだからそれを実現するためにはお金がいるけれど、必要以上に貯め込んで、それを大っぴらにして金満振りをひけらかす人物というものは許永中と性根の部分では同じだと思う。正業で儲けた金か違法な詐取で得た金かの違いだけで、心の底にある考え方は同じでとても卑しいと思う。貧乏人の僻みかも知れないがそう思う。