飛田残月/黒岩重吾 著

大阪の遊郭街「飛田」を舞台にした小説など、八編の小説が収録された短編集。

 

なんとなく題名と表紙が気になって手にとった一冊。
飛田が舞台、娼婦が登場人物の作品は3作。もうひとつ『雲の花』という一篇は大阪の都島に住む娼婦のお話。
時代設定が書かれていなかったが、作者は1950年代に西成、飛田辺りに住んでいたことがあるらしいので、その時代のお話として読んだ。といってもその時代の飛田の光景を知っているわけもなく、古い日本映画で描かれるドヤ街や昔の大阪の写真集などでみる街並みを想像しながら読んだ。

うらびれた街並みの中で色んな生き方をする人たちがいる。賢明に生きている者もいれば、投げやりだったり、もうあらゆるものを諦めてそれでも死ぬわけに行かないから怠惰に堕落して生きる者もいる。でもだいたいそうだと思う。読み物やネットの中には前向き、前進、向上、成長と良い方向に進化し続けなければ生きていけないかのような言説が飛び交っているけれど、深く傷ついて倒れてしまって、そこから這い上がることができずに、その環境に甘んじて生きていかなければいけない人だって多いはず。成長神話のようなものの方が嘘臭いのだと思う。
今は西成の辺りを綺麗にしようと小綺麗なホテルも建っているようで、そのお隣である天王寺阿倍野といったところも随分綺麗になっている。そういうのが大阪の成長のシンボルであるかのように喧伝されるけれど、でも侘しく時代に取り残されたような街の感じが失われて侘しいと思う人もいるだろう。なんでも浄化して最新のピカピカしたものに取り替えればいいというものではない

寂しくて救いのない話が多かったけれど、それが逆に良い印象を持った小説だった。