さよならエリュマントス

2023年、日本、大野大輔監督

解散寸前のチアリーダー・グループは山梨県のイベントに出演するために投宿していたが、その夜にマネージャーが地元の半グレとトラブルを起こし、騒動に巻き込まれてしまう。

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ご近所トラブルで憂鬱だったのだ。思い出さなくてもいいのに、ルールを守っていないのはあっちの方なのにとか、あんな言い方はないのではないかとか、あいつがすぐ近くに住んでいると思うだけでイライラするとか、事あるごとに思い出して、小さな棘が心に刺さってチクチク鬱陶しいような気持ちでいたのだ。
こういう時は映画でも観に行くに限る。深い芸術性だとか鋭い社会批評とか、そういうものがない方が良い。だから京都みなみ会館に『さよならエリュマントス』を観に行ったのだった。

ミスマガジンという少年マガジンヤングマガジンの主催するコンテストで入賞したアイドルが主演する真正のアイドル映画。
あまり登場人物が多くなると物語が分からなくなる性質で、それに今どきの女性アイドルグループとかK-POPの人とかは、ただでさえ区別がつかないのに、6人もアイドルが出てくる。誰が誰だか分かるのだろうか。
と思っていたけれど、これは脚本の妙なのでしょうね。登場人物のそれぞれに事情があり、対立や葛藤があることでそれぞれのキャラクターが浮かび上がってきて、はっきりと一人ひとりの性格が顕になってくる。解散寸前のドサ回りをさせられているグループの中で彼女たちがこの先どうしていきたいかと悩んで、行動しようとする様が物語を引っ張っていく。しっかり者のリーダー、悩みながらもお酒で気を紛らわそうとする者、別のオーディションに受かったものの将来に期待と不安を持つ者、それを抜け駆けだと言う者、意外とマイペースな者、そんな彼女らを気遣う者、登場人物に色んな性格と考え方があって、それぞれの気持ちが分かる。そして、今のこの場所でこのまま働き続けて歳をとってしまって自分はそれでいいのだろうか、といった悩みはアイドルだけでなく、若い時には誰でも考える悩みじゃないだろうか。

やさぐれチアリーダー・グループのメンバーは解散寸前で、マネージャーは投げやり、先の見通しもない。でもトラブルに巻き込まれることで一旦は一致団結してマネージャーにも一泡吹かせる。
そんなに大きなお話でもないし激的な驚きがあるわけでもないし、ツッコミどころがないわけでもない。けれど、ふんわりと楽しんだ。観終わった後には6人のアイドルそれぞれに好い印象が残った。2020年代のベスト映画にはならないかも知れないけれど、この映画を観て、観終わった後は良い気分で帰ったのだな、ということは心に残るだろう。そんな映画との出会いは大事なのだと思う。少なくとも映画館から帰る間に、ご近所トラブルの棘は思い出さなかった。