エルヴィス
2022年、米国、バズ・ラーマン監督作
ロックンロールのキング、エルヴィス・プレスリーの伝記映画。
最高。
全ての場面が華やかで映画を観ている間ずっと気持ちが高揚し続ける。そして結末はどこだろうと思いながら観る。栄光の歴史のどこかで終わるのか、それともエルヴィスの最期まで描くのか、だとしたら悲しい結末になるのは分かっているのに、と。エルヴィス格好良い、凄い、などと思いつつも悲しみを予感させつつ映画は進む。
序盤、マネージャーのトム・パーカー大佐がエルヴィスの歌を初めて目撃するライブでは、女性客たちが徐々にエルヴィスに魅せられてついに声を上げてしまう描写があり、それを観ているこっちがゾクゾクする。そう、エルヴィスってロックンロールのキングだけれど、女性に熱狂的に支持されたアイドルでもあったんだと思う。
エルヴィスを演じたオースティン・バトラーに魅了され、マネージャーのトム・パーカー大佐が死ぬ程憎い。いや、もう、その役を演じたトム・ハンクスが憎い。ほんまあいつなんやねん。
伝記映画を観るためには、その主人公の人生を予習しておくべきだと思って、何かエルヴィスの伝記本を読んでから映画にのぞもうと思っていた。なので、大型書店に赴き音楽関係の棚に直行したがエルヴィスの本は一冊しかなかった。それもちょっとマニアックな感じだったのでスルーしたが、同じ本棚にビートルズの関連書籍は何冊もあった。それくらい違う。
その昔、ニートビーツやガソリンが出演するガレージパンクのライブを見に行った。2000年代頃だったんじゃないかと思う。その中にいた客で、ベルトのバックルに「ELVIS IS NOT DEAD」と鋲で描いたものをつけている奴がいた。それを見た時に「なんで今時エルヴィスやねん」と思ったのだった。時代錯誤だなとも。でもそれが格好良かった。だってニートビーツなんて60年代のロックンロールバンドをそのままやっていて、今も続けてるんだから。アナクロニズムの格好良さってある。
でもエルヴィスってそんな感じだった。彼のファンって、もうその頃でも年配の方たちだけで、若いファンをひきつけていたとは言えなかった。ロックンロールのキングと言われたけれど、その後に登場したビートルズは当時のファンだけでない人々に今でも聴き続けられているのに、エルヴィスにそんな評価はなかった。
そんな不憫な状況もこの映画によって改善されるかも知れない。
親に楽させたいという思いから商業的成功を目指すエルヴィスと金儲けだけが目的のマネージャー、トム・パーカー大佐との離別が描かれて、やがてエルヴィスは自己表現に比重を置きたいと思うがマネージャーと衝突し葛藤するというお話の映画で、色々と味わい深い。
音楽家が、彼の作る音楽と対価で生活が成り立って欲しいと思うけれど、必要以上の商業主義や顧客の方を向いた作品作りで商業的成功を目指すのは違和感がある。そして音楽を作っていない人間による搾取も。そういうことが描かれていて、悲しい結末ではあるけれど、エルヴィスの功績とその輝きが何ら損なわれるものではないということも描かれていると思う。
この映画によってエルヴィス・プレスリーがもっと評価されますように。