そしてミランダを殺す/ピーター・スワンソン 著
空港のバーで若く美しい女性と出会った実業家の男は、彼女とは二度と会うことはないだろうという思いから、妻が浮気をしていて殺してやりたいと思っていることを話してしまう。しかし女は意外にもその殺人に手を貸してもよいと提案する。『このミス2019年度』で2位にランクインした犯罪小説。
ずっと前に購入していて途中まで読んだのだが、そのまま放置してしまっていた。再度読み始めて、読み終わってからなぜ一度放置してしまったのかが分かる。
400頁を超える小説だけれど170頁過ぎまでは、物語上の大した変化が起きない。いや、空港で出会った見知らぬ女が殺人の手助けを申し出るなんてことは大したことで、その行く末は気になる。過去の殺人も語られるから事件は起きている。しかし170頁くらいまではそれほど意外な展開ではない。でもそれを過ぎると怒涛の展開で予想を裏切り続けてくれる。加害者は被害者となり、殺人者は探索者となる。守勢に回っていたものが攻撃に転じたかと思うと攻撃されていた事がわかる。このあたりの展開はネタバレになるから何も書くことができないけれど、どれだけ期待させてもそれを裏切らない展開だと思う。それくらい面白かった。
主人公の女は孤独な殺人者であり、この孤独を抱えている人物というのに自分は共感してしまうのだな、と改めて思う。誰も信用しない、誰とも協力しない、そういう姿勢。寧ろ簡単に人を信用したり、他人が自分と同じ考えだと思い込んで安心してしまうことの方が信じられない。
この主人公が、寂しさみたいな感覚を一切持っていないのも良い。
大抵の人は独りでいることが耐えられなくて、つるんだり群れたりしてしまうもので、そういう感覚を持っていない人間を変人扱いしてしまいがち。けれど、寂しいからといって誰かを求めることによって、他人に合わせることがストレスだったり、裏切られたり、それゆえに憎んだりして難儀なことこの上ない。強さを測るのに腕力体力気力経済力と色んな尺度があるけれど、孤独に耐えられることは生きていくのに必要な強さではないかという気もする。