犯罪/フェルディナント・フォン・シーラッハ 著

犯罪にまつわる連作短編集。

 

この本を読んでみようと思った切っ掛けは、この動画でした。

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職業はドイツ人と仰るマライ・メントラインさんが、ドイツの小説を紹介なさっていて、この動画を見て読んでみようかな、と思いました。

様々な犯罪が起こり、それを弁護する立場の男が登場する。この弁護士だけが共通の登場人物になるけれど、各編の主人公は犯罪を犯した人物で、その物語が興味深い。

書店では、ミステリーという括りで懸架されていたけれど、先の動画で、ドイツでは文学作品として位置している小説らしい。確かに謎解きのような隠された事実が次第に解き明かされるといったミステリー的な小説ではなく、犯罪を通して人間や社会の暗部をあぶり出して見せるような話になっている。
犯罪には理由があって、犯罪をおかした者に同情してしまうような展開があったり、逆にその理由が一切共感できない人の不思議な心性であったりする。勧善懲悪の物語であれば善に感情移入して読み進めることができるけれど、そういうものではなく、やりきれない苦さのようなものがある。

こういうことは料理に例えられるような気がしていて、子供というのは苦い食べ物が嫌いでしょう?ピーマンとか。そして甘い物が好きだったり。
でも大人になるとほろ苦さみたいなものを味わえたりする。ビールだって美味しいと思えるから。ま、甘い物も美味しいけど。
小説も同じで、正義の主人公が大活躍するだけのお話では大人にはちょっと物足りない。悪にもそれなりに理由があったり、そこに至るまでの人生があったりするはずだし、正義というものも視点を変えると絶対的な善とは言い切れないのではないか、みたいなことがあるわけだし。

色んな味、というか感情が味わえる滋味深い犯罪小説で、ドイツの小説ってあんまり読んだことないよな、ということにも気付いた。司法制度も日本と色々と違うということもでてきて、こういう小説があるのだなあと思わせる一冊でした。