徹底検証 日本の右傾化/塚田穂高 編著

現在の日本は右傾化していると言われるが、それらは現状どのようになっているか、どのような経緯を辿り今に至るのかを検証する。 

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)

 

 
右傾化を測る題材として、差別主義、政治、教育、家族と女性、言論と報道、宗教、といった題材で多数の執筆陣によって現状とそうなった経緯が記されています。とても色んな論点があって感想をまとめきれないのだけれど、非常に危険なことだなあと改めて感じました。

現代の右傾化と言われるものの殆どが強い者の理屈で、差別主義であれば差別する側、政治であれば政権与党側、教育であればエリート主義、という風に強い側の理屈を補強し、それに正しさを求める考え方だと思います。
例えば、教育の話でゆとり教育というものに関してこのようなことが本書には書かれています。

文部省の諮問機関「教育課程審議会」の会長として、いわゆる「ゆとり教育」の原案となる答申を取りまとめた人物にも合った。文化庁長官も務めた作家の三浦朱門氏である。2002年の学習指導要領改訂で小中学校の授業時間と内容の三割削減が示される以前の取材だったが、〝ゆとり〟は平均学力の低下をもたらすのではないかとする私の質問に、彼はこう語った。
「逆に平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならんということです。できん者はできんままで結構。戦後50年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。100人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない菲才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。それが〝ゆとり教育〟の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ」


とあります。このように、強い者を優遇し弱い者は我慢を強いられても仕方ないなぜなら弱いからだ、といった考え方は強者の理論でしかなく、それは自己責任論や弱者切り捨てと同根の考え方だと思います。で、その実直な精神を植え付けるためにやるのが愛国教育ってのがもう悲しくなりますよ。

新右翼の論客である鈴木邦男さんは、インタビュー

たぶん、人間は、体は右翼、頭は左翼なんですよ、きっと。

と仰っていて、けだし名言だと思うのです。
経済学者の松尾匡さんは自身のホームページで右翼と左翼について

世界を縦に切って「ウチ」と「ソト」に分けて、その間に本質的な対抗関係を見て、「ウチ」に味方するのが右翼である。
 それに対して、世界を横に切って「上」と「下」に分けて、その間に本質的な対抗関係を見て、「下」に味方するのが左翼である。

と書いていてこれもとても分かり易い。リンク先の図は更に分かり易いです。

これらにもうひとつ付け加えるなら右翼は強者に左翼は弱者にそれぞれ味方すると言っていいのではないかと思います。でも、左翼も天下をとれば強者を目指すし愛国教育もする。中国共産党を見れば軍事増強と抗日戦争を賛美することで愛国教育を行ってますから。右にしろ左にしろ全体主義と自由を制限する社会に碌なことはないです。

しかし鈴木邦男さんは今では左翼だと言われたりするし、尊皇でない右翼もいるらしいし、世の中が滅茶苦茶であることだけは確かでしょうね。