ブラックブック
2006年、オランダ、ポール・バーホーベン監督作
ナチス占領下のオランダに住むユダヤ人で歌手の女は国外に脱出しようとするが、その途中でドイツ軍に家族を殺されながらもなんとか生き延びる。やがて彼女はレジスタンスに加わり、スパイとしてナチスの将校に接近するが。
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大傑作。
少し前に『ナチス第三の男』を観て煮え切らない思いがしていたので、ナチス物の映画をと思って観始めたけれど、二重三重、いやそれ以上のスパイ合戦と裏切りが交錯していてスリルとサスペンスどころじゃない映画でハラハラドキドキしっぱなし。バーホーベンがこんな傑作を作っていたなんて。
バーホーベン監督作で大好きなのは『スターシップトゥルーパーズ』なんです。
www.youtube.com予告編を観てもらっても分かる通り、なんだかどの場面も地べたが平坦で床みたいでしょう?だから安っぽく感じてしまうのです。でもそれが良い!軍国主義礼讃のストーリーですけどバーホーベンはそんなことちっとも思ってないからあらゆる場面が滑稽なんです。地べたが床みたいなに平らなのもそのせい。そのくせ説教臭くなくてただのSFグロ戦争映画として観ても最高に楽しい傑作なのです。
しかし本作『ブラックブック』はそんな安っぽさは皆無。ある意味風格さえ漂う作り。そして観客を楽しませる要素はこれでもかと詰め込まれていてスリルとサスペンスにエロス、そして残酷描写。流石バーホーベン。でもそんなただのエンタメ映画なだけではなくて、戦争の残酷さも余すところなく描いてる。というか戦争が残酷なのは人間が残酷になれるからという人の嫌な部分を徹底的に描いてる。
主人公の女性の力強さを描いた女一代記としても素晴らしいし、群像劇としても登場人物全てが生きていて生々しい。
そしてイスラエルに移住した彼女の現代の境遇がラストに描かれて、それも苦い。
明るく楽しい映画ではなく、寧ろ苦みしかないけれど、それでも傑作。バーホーベン凄い。