大日本帝国の興亡/ジョン・トーランド 著

大日本帝国の興亡〔新版〕1:暁のZ作戦 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大日本帝国の興亡〔新版〕1:暁のZ作戦 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

日本が中国に進出し、2発の原爆が投下されて敗戦に至るまでの太平洋戦争全史を日米双方の視点から描いたノンフィクションです。
5巻からなる本書ですが、その半分以上は日本軍が負け続け米軍が進軍していく過程で埋めつくされています。そのどれをとっても、補給も増援もないまま精神力だけで陣地を死守せよと命令される日本軍に対し、着実に兵站の足掛かりを築き物量で圧倒する米軍の姿が描かれている。米国は同じ時期にヨーロッパ戦線にも派兵していたわけで、国力の違いを見せつけられます。

読んでいて思ったのは、もう70年以上前のことではあるけれど日本人の精神性というのはあまり変わってないんじゃないかと思いました。本書で描かれている日本軍と政府の悪いところは、今の世の中や企業文化の中にも確実に残ってる。
前線へ兵士や武器を送ることができないまま現場の部隊に決戦をせまるところなどは、現代でも密な計画も策略もないまま下請けや現場に全てを丸投げしてしまう仕事のやりかたに似通っている。
敗戦濃厚となった戦況において無条件降伏を受け入れるかどうかを判断する重臣たちの会議では、陸軍の面子や海軍の維新などと言って誰もはっきりと降伏を受け入れると言いたがらない。こういうのも、誰しも現状を収拾するのに苦い結論を受け入れなければならないことは分かっているけれど、それを自分から言い出すのは避けて誰かが切り出さないかとぐずぐず会議を続けるといった場面を今までの職場で幾度も見てきた。そして誰もそれを言い出せないから目を背けたり先送りしたりして更に事態が悪化するという始末。何度も見てきた。
それらを、国内向けには戦況が悪いことを公表しなかったり誤魔化したりするのも、現代の政府の統計不正や企業の粉飾決算と同じことだと思う。目の前の課題を解決することよりも、より労力の掛らない誤魔化しや嘘に手を出してしまうという構図。
こういうのみんな大日本帝国の頃から脈々と続いていることじゃないだろうか。

外国で生活したことはないのだから「日本人とは」みたいな話はしたくないけれど、本書を読んでいるとアメリカとは違う日本人らしさの良くない部分が色々と垣間見える気がします。

本書は5年の取材期間を経て1970年に刊行された書籍で、まだ関係者が存命であったことから各方面に取材、インタビューを行って執筆されたとのことで、作者はアメリカ人であるけれど奥様が日本人であることから日米双方について平等に記述されている印象を受けました。
マスコミが報じない真実、みたいな与太話を鵜呑みにするよりは本書のような書物を読んだ方が百万倍価値があると思います。

 

大日本帝国の興亡〔新版〕2 :昇る太陽 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大日本帝国の興亡〔新版〕2 :昇る太陽 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
大日本帝国の興亡〔新版〕3:死の島々 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大日本帝国の興亡〔新版〕3:死の島々 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
大日本帝国の興亡〔新版〕4:神風吹かず (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

大日本帝国の興亡〔新版〕4:神風吹かず (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 
大日本帝国の興亡〔新版〕5──平和への道 (ハヤカワ文庫NF)

大日本帝国の興亡〔新版〕5──平和への道 (ハヤカワ文庫NF)