大日本帝国の銀河 全5巻/林譲治 著

第二世界大戦前夜の日本に、その当時の技術では建造できない軍用機が飛来する。そしてその搭乗員は火星から来たと宣言する。
世界情勢が不穏な時代に各国の思惑が工作する中で異星人とのファーストコンタクトが進む。

 

2巻まで読んで続刊を待っている間に積読になってしまっていたので全5巻を一気に読み終えた。

第二次世界大戦前夜という時代に異星人がやって来るというファースト・コンタクト物のSF小説で、もうこの設定だけでワクワクする。そのワクワクは読み終わるまで止まらなかった。

全5巻の内、4巻までは異星人と軍隊との接触で大方の物語は進むが、最終巻になって怒涛の展開となり、これぞSFというような場面が展開される。いや、面白かった。

2巻で宇宙人の技術供与により現代のコンピューターのような演算器が登場するが、科学者が装置に命令を打ち込んで出てきた結果は

「HELLO WORLD」。

プログラミングを少しでも勉強したことが分かるこのジョークにニヤリとさせられるが、これは地球人に対する異星人からの「HELLO」とも読める。粋だなあと思う。

異星人と各国の軍隊が衝突するという展開も最高に面白いのだが、異星人が人種にとらわれず優秀な地球人を登用したり、その過程で当時は参政権すらもなかった女性が登用されて活躍するなど、社会の倫理観がまだ古い考えであった時代にもたらす軋轢も描いている。この場面では、読者は異星人の側の倫理観に近いので格別な高揚感がある。
そして登場人物の科学者は、自分が恵まれた環境と家柄で今の地位があることに思い至る。この場面も裕福な家庭環境で育った者が、より良い教育の機会を得られるといった、昨今の言葉で言えば「親ガチャ」と言われるような事柄を描いていて、現代社会でもそれに自覚的でないエリートの発言が散見されるようなことを批判的に描いている。

早川書房の広告だったと思うが
「世界のリーダーはSFを読んでいる」というものがあったはず。
SFという文学ジャンルは技術や科学が今の状態から更に進んだ時に社会にどういうことがあり、そこでどんなドラマが生まれるかを描くから未来を予見していると言われたりするが、現代社会を風刺的に描くこともできる。

そんなことを大日本帝国陸海軍と異星人との接触といった荒唐無稽でありながら格別に面白い娯楽作に織り込むのだからSF小説というのは本当にたちが悪い。(褒めてます)