宇宙へ/メアリ・ロビネット・コワル 著

第二次大戦が終わって間もない1952年、米国東海岸に巨大隕石が落下して多くの死傷者を生む。夫と共に生き延びた科学者エルマは、隕石落下の影響で地球が人類の生存に適さないほど環境が変化することを予測する。世界は協力して地球外へ脱出するべく人類の宇宙開発を加速させる。

現実にアポロ11号が月に人類を運んだのは1969年。しかしこの小説では1958年になっている。そのような歴史改変SF小説

人類は、隕石の落下とそれによる環境変化によって宇宙への進出を余儀なくされ、宇宙開発が急ピッチで進むという世界を描いている。とても面白い。というか世界はこう進むべきだったのだとも思える。宇宙こそフロンティアであり、そこへの足がかりを得ることこそが人類の希望なのに。

物語は主人公の女性科学者エルマを中心に進む。彼女は第二次大戦においてWASPと呼ばれる女性パイロットとして従軍していた過去を持つ。隕石落下の災厄から脱出する際にもセスナを果敢に操縦して夫と共に危機を脱する。そして宇宙開発の現場では、計画と実行に必要な計算者として働いているが、パイロットであったことから宇宙飛行士を目指す物語となっている。

宇宙開発の偽史として読んで面白いし、女性が男女差別のある中で宇宙飛行士を目指す物語としても面白い。参考文献に映画『Hidden Figures』(邦題:ドリーム)が挙がっていたが、かの映画は黒人女性の計算者が計算者として活躍する映画だったけれど、この小説では女性計算者が宇宙飛行士になるというスケールアップした展開を持っている。

読んでいてずっと心地よかった。娯楽小説として虐げられた者が成功を成し遂げるなんて王道かもそれないが、感動するのは間違いない。そして悪役も出てくる。宇宙開発のロマンもある。エンターテイメントのSFとして最高だと思う。そして緻密な宇宙開発の現場での描写はかなり専門家によるサポートも受けていたことが著者の謝辞で知ることができる。かなり手が込んでいる。

ポリコレ要素が入り込んで娯楽作品がつまらなくなったと主張する人達はこの小説を読まない方がいい。何しろ女性が男女差別に抗って夢を叶えるという作品なのだから。そういうくだらない政治性で物語の良し悪しを判別するような人間こそが政治的で色眼鏡でしか藝術も芸能も判断できない愚者なのだと言っておく。

表紙絵が2冊並べると素敵です。