地下鉄道/コルソン・ホワイトヘッド著

奴隷として綿花畑で働かされていた黒人女性の逃亡の物語。

非常に重厚な小説だった。

時代設定がはっきり書かれていただろうか。訳者あとがきによると19世紀前半となっている。
奴隷としてアメリカ南部の綿花畑で厳しい労働と残酷な虐待の元で生きる黒人女性はついに農場からの脱走を試みる。そしてその往く様が描かれる。
逃走に使われるのは奴隷制に反対する人たちが建造した地下鉄道で、文字通り地下トンネルを走って逃亡者を助けている。

はて、この時代に地下鉄、それも州をまたいで走るような長距離の路線を建造する技術があったのだろうかと読書を中断して調べてみると、実際には地下鉄道というのは黒人奴隷の逃走を支援する秘密組織の名であったらしく、実際に鉄道を走らせていたわけではないらしい。鉄道で逃走するという部分は幻想的な設定であることを知った。

逃走劇であるから、主人公に「捕まらないで欲しい」と思うわけだけれど、そう思うのには、農場での黒人奴隷に対する虐待があまりにも壮絶で、主人公が捕まって農場に連れ帰られたりしたならば、死どころか最悪の拷問によって殺されることが明示されるから。その描写たるや読んでいるのが辛くなるくらいだった。
しかしそれを描いたからこそ、この小説はファンタジーでなく歴史をもとに描かれた重厚な小説になっていると思う。黒人たちが奴隷として生きた時代の苦難が心の中に宿るから。

書籍の帯には円城塔さんの推薦文で「フィクションを経由せずに、他者の痛みを感じることができるとでも?」とある。
本書は、まさしくその通りの小説だと思う。逃走劇という物語の娯楽性を持ちながら、我々は読書の間には黒人奴隷になりその苦難(という言葉では到底足りない)を味わうことになる。

人によっては残酷すぎて読み進めることができないかも知れないけれど、それでも素晴らしい小説であることは間違いない。数多の賞を受賞していることにも納得する。