オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分

2013年、英国、スティーヴン・ナイト監督作

建築技術者の男は、車に乗り仕事場である工事現場を出て妻と息子の待つ家に帰ろうとしていた。が、気が変わり高速道路をひた走ることになる。その先には、一度だけ浮気した女性が今夜彼の子供を出産しようとしている。

www.youtube.comとても面白い。
派手な演出は無い。無いどころか映像的には、運転する男と車内、そして車窓からの夜の高速道路、それだけの場面で構成されている。しかし、車内で男は運転しながら様々な人と電話で会話することにより人間ドラマが生まれる。

主人公は、明朝の大きなコンクリート打設工事の監督を放棄したことで部下に代理をするように指示する。しかし部下はあまりにも重大な責任を負わされることに尻ごみするし、嫌々ながら準備を始めるもののトラブルが幾つも湧いてくる。ここで交わされる会話はとてもスリリング。
そして主人公と上司の会話もまた苦渋に充ちたものになる。頼りにしていた現場監督が仕事を放棄することになるのだから。

妻と息子はサッカーの試合を主人公と見ようと家で待っている。なのに妻は、主人公が浮気したこと、彼の子供が今夜生れることを告げられ取り乱す。息子たちは最初無邪気にサッカーのことを話しているが、次第に母親の様子がおかしいと不安になる。

そして今まさに子供を出産しようとしている女からも心細いと電話がかかる。そこへ男は車を走らせる。

これらの人たちから次から次に電話が掛って来る様子だけで映画が成り立っている。でもそれがとてもスリリング。

不倫の話というのはどうにも好きになれなくて、それこそ自己責任でしょ?としか思わないのだけれど、主人公が過ちをおかしてしまったのも相手がとても孤独で淋しい女性だったから、という主人公の優しさが滲みでているのがやりきれない。

この映画で一番面白いと思ったのは、建築工事というものをとてもスリルのあるものに描いている点がとても珍しくてよくやった!という感じがする。ヨーロッパで最大級の建築基礎のコンクリート打設工事であるということが会話劇の中で明かされるけれど、コンクリート工事って失敗できないですからね。
よく自己啓発書だとかビジネス書だとかに「仕事は完璧を目指すな。7,8割で丁度良い」みたいなことが書かれていたりするが、技術職にそれは有り得ないですって。それでいいなら耐震偽装と言われたあの人も許してやれるの?って話だから。
そういう非常に厳しい完璧さを求められる仕事だということが会話の中で交わされて、幾つか見つかった不備もなんとかクリアしていくところがとてもスリルがある。でも正直言うとそんな大工事を一人の人間が仕切っているというのも現実的ではないし、コンクリートを打つ前の日にあんなにバタバタしてるようではあきませんやん、というのが本当のところだけれど、建築工事というものをスリラーに仕立て上げた映画なんて他に見たことないから。