ショック・ドゥ・フューチャー

2021年、フランス、マーク・コリン監督作

1978年のパリ、若き女性音楽家アナはシンセサイザーに囲まれた部屋に籠もってCM音楽を製作していたが、締め切りの期日になっても曲は出来なかった。依頼人がやってきて「夕方まで待つ」と言われ作曲に取り掛かるも機材が故障してしまう。技術者の男を呼んで修理してもらうとあっさり修理は終わるが、彼が持ってきたROLANDのCR-78というリズムマシンの音に魅了されてしまい、それを借りることができるとアイデアが湧き作曲は進むのだった。

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シンセサイザーの操作系というものは見ているとワクワクする。あの大量のツマミとスライダー、そして点滅するランプ。それらを操作するだけで千変万化に音色が変わり様々な電子音を奏でることができると思うと、そこにはガジェットとしての魅力がある。
1978年のお話なのでタンスのように大型のアナログシンセサイザーが主人公の部屋を占めていて、それが格好良い。YMOのファースト・アルバムが出たのが同年だから、そこにある機材が高価なものであることがなんとなくは分かる。シンセに詳しい人ならば、あれはどのメーカーの何というシンセか特定できるのかも知れない。

そんなアナログ・シンセサイザーフェティシズムが映画から感じられる。Rolandリズムマシンが鳴る場面は確かに心躍る音色だと思うから。

ただ、映画の宣伝文句には、この当時の女性ミュージシャンの不遇を描いているようなことが書かれていたけれど、それは感じられなかった。締め切りを守らないのが悪い。そのことで依頼主から責められているのは女だからというわけではない。締切を守らないのが悪い。
業界の大物に認められなかったという展開も、女だから認められなかったという風には見えなかった。新しい電子音楽に対する無理解と売れるか売れないかという商業主義の土俵に乗れなかったというだけにしか見えない。

とツッコミどころはあるものの、エレクトロ・ミュージックの黎明期における、無名のミュージシャンのお話がコンパクトにまとまっていて、新しい電子音楽と機材に魅了されていく場面は愛おしい感じがある。たった1日のお話でもあり、激しい物語の起伏というものはないが、それでも傑作とは言わないまでも愛らしい小品くらいの感想はある。しかし小品なんて思ってしまうのは豪華なハリウッド映画を見慣れているからの感想だろう。映画というものは本来このくらいで良いものだという感じもする。
大作映画ばかり観ていないで色んな映画を観ておかないと感覚が麻痺するし、小規模な映画を「小規模だ」という評価しかできなくなるような気がする。世界には色んな映画がある。