ファクトフルネス/ハンス・ロスリング他 著

10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

 

古本屋で購入。

数字とグラフを使ってデータを提示し、世界情勢に対する思い込みを払拭するという内容。例えば、世界人口の中で貧困の渦中にいる人は思っているほど多くはないとか、飛行機事故はそれほど起こっていないとか、乳児の死亡率は年々改善していっているとか、要するに世界は悪くなっているわけではない、ということが書かれている。
思い込みが覆されたこともあったし、そうでもないものもあった。基本的に書かれていることに何も異論はないのだが、本書に通底してある「メディアは真実を報じていない」という言説があって、確かにここに書かれていることではそういう面もあるだろう。新奇で奇妙なものの方が人々の耳目を集めるからそのようなものが目につくということはあるだろう。でもこの手のメディアに対する不信感を煽るのは陰謀論者の常套手段なので気味の悪い感じが拭えなかった。

この本自体にさして文句はないのだが、その読まれ方がどうにも気に入らない。感想文などを検索して見ると、曰く
「世界を悲観的に捉えるよりも楽観的に捉えよう」だとか
「世界は良くなっているのだから不平不満を言うのは間違っている」みたいな感想を見かけて、いわゆるポジティブな意見や姿勢、物事の捉え方の手本にされている感じがある。ポジだとかネガだとかではなく、データを基に正確に判断しましょうというのが本書の主旨だと思うのだけれど。

例えば、これは広告だけれど、こういう感じのもの

マクロで見れば世界は貧困から脱出しつつあるかも知れないが、個々人が貧困で苦しんでいる事実がなくなったわけではない。巨視的に見れば世界経済は成長しているだろうが、個人投資家株式投資で損をすることはある。マクロな傾向がミクロな事象と同じではないのに、世界は良くなっているのだからと批判的である言葉をネガティブだとして負のイメージを貼り付ける。ポジティブを賛美しネガティブを非難する、楽観が正であり悲観は負であるといういつもの流れ。
しかし物事を計画する時に計画通りいかないことはある。だからそれを想定しておかなければならない。それは楽観的であるより悲観的であるほうが周到な計画に結びつく。
悲観的観測ばかりでいつまでも物事を始められないのは良くないことだろうが、楽観的な見通しで簡単に物事を始めて、準備不足をあとから取り繕うのは杜撰としか言いようがない。

『ファクトフルネス』の感想文でこの本の内容に全面的に賛同している感想を多く見かけて、何事かを信じるというのはポジティブな心性だろうなとも思った。何事にも懐疑的であることがネガティブな印象があることからもそれが分かる。けれど、この本でさえ一度疑ってみるくらいの慎重さが必要ではないだろうか。そういうことが書かれた本なのに。

なんだかこの本の読まれ方に気味の悪さを感じたのでした。