ミッドサマー

2020年、米国・スウェーデンアリ・アスター監督作

大学生の男は男友達4人で夏至祭のスウェーデンへ旅行に出かける計画を立てていた。折しも付き合っている彼女の姉妹と両親が亡くなったことで、彼女も旅行に誘うことになる。
到着したスウェーデンの村では歓迎されるものの不穏な出来事が起こる。

www.youtube.com

美しい食人族映画。
食人族映画の傑作『グリーン・インフェルノ』は環境活動に熱心な大学生たちがアマゾンの山中に墜落して食人族の村に囚われ恐ろしい目に会うという映画でした。
本作は、人を食う民族ではないけれど、スウェーデン僻地の村で大学生たちが異文化の応酬を受けて恐ろしい目に会うというお話で、食人族映画と似てる構成。両者共にグロテスク描写はあるものの、本作『ミッドサマー』は全編美しいのが違うところです。それとアマゾンの奥地ではなく、飛行機と車で容易に行ける地続きの文明世界であるヨーロッパの国で起こる出来事というところに妙な恐ろしさがある。

ただ、単にお化け屋敷のような観客をびっくりどっきりさせる映画ではなくて色んな要素が詰まってる。一番重要だと思われるのは幻覚剤の使用。
村に着いてすぐ彼等は楽しむ為にそのようなものを嗜む。主人公の女性には草むらに置いた自分の手の甲から更に草が生えるのが見え頭上の木も歪んでいる。その後もお茶や煙で幻覚剤を使用する場面があり、幻覚剤での酩酊感が各所で表現され、この映画の中で行われる惨事や美しさが現実なのか幻覚なのかが曖昧ではっきりしなくなり、観客を夢の中にいるような心地にさせる。

他にも近親相姦で生まれた知的障害者や登場人物たちの心情と裏腹に表面的な態度など共感したり反発したり嫌悪したりと恐怖だけでなく色んな方向に感情が揺さぶられる。
映画は物語を映像で体験することによって自身の中に生まれる感情や情感を楽しむものなので、様々な感情を味わわせてくれる本作は傑作としか言いようがない。

分からないところも幾つかある。
黒人の青年が殺される場面で彼を見下ろす男は誰だったのか、時折出てくる顔の変形した人物はなぜそうなってしまったのか、そんな、意味のよく分からない場面もある。気の効いた映画解説などがあれば是非読みたいけれど、そういうものが載っていそうな映画秘宝はもうない。