奈良へ/大山海

売れない漫画家は東京から奈良へ戻る。PUNKS、ヤンキー、野球部の男、そして奈良を救うと宣言する男は拳銃を手に入れ大仏の面をつけて奈良を徘徊する。

 

書店でこの漫画の帯に作家の町田康が賛辞を寄せていたので手に取った。

どの登場人物も、今自分がいる世界でうまくいっていない、若しくは上手く行っていないと思われる人たちばかり。だからといって一発逆転を目指して前向きな努力をするというのでもない。いや、漫画家だけはアングラではなくメジャー誌に浮上すべく努力しているけれど、でも他の人物たちはそうでもない。だからといって破滅へまっしぐらという話でもなく、ゆるゆるとだらだらとダルい日々が続く。

ここで駄目な奴はどこに行っても駄目だ、というのは転職時に引き留めるのを諦めた人から言われる捨て台詞だが、確かにそういうことはある。どこに行っても誰からも愛される人がいるように、どこに行ってもそこにしっくり馴染まずいつまでも他所者みたいな感じを引き摺っている人。そんな人を想像する。

 

ダメ人間たちがウロウロするお話で、ネットの書評ではつげ義春と並べられていたが、確かにつげ義春の漫画というのは、つげ義春という自己評価の極端に低い人がそのダメっぷりを私的に漫画で表現するものだから似ているのかも知れない。しかしつげ義春よりもハードコアな感触がある。

 

夏の奈良の空気感が感じられて、それが得も言われない無常観を醸し出している。