蟹工船・党生活者/小林多喜二 著

オホーツク海へ出漁して蟹漁と缶詰加工をする工船に乗りこんだ労働者たちは、その過酷な労働環境と無慈悲な監理者によって死者までがでる有様だった。やがて労働者たちは連帯して反攻する。

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

蟹工船・党生活者 (新潮文庫)

 

 第二次大戦前に書かれたプロレタリア文学の名作、古本屋で80円で売ってたので読んで見ました。

今の感覚からすると有り得ない労働環境なのです。食事は粗末で、労働時間は会社側の押し付けるまま、栄養不足と過重な仕事で病気、死にまで至る。又、海が荒れると分かっていて漁夫に出漁させるなど、安全監理もへったくれもない利益優先の仕事ぶり、そして船の上という逃げ出せない環境、そしてその裏では内地で儲けを独り占めする会社側、資本家という図式で、労働者の反攻というよりも奴隷の反乱といった趣きなのです。

少し前に本書が若い人の間で読まれ始めているというニュースがありましたが、自分達の仕事とその環境に照らし合わせて読んだということなのだと思います。現代でも本作ほど酷くはなくとも、残業代不払い、長時間労働、重い責任に比しての薄給、理不尽な組織、不安定な雇用、職業斡旋による中間搾取など自分たちの職場環境に当てはめようと思えばそう読める部分は沢山あると思います。

文章は少し読み難いのです。あまり情景の描写がないので、登場人物のいる空間が想像し難い。主人公が一人いてその視点という描き方ではないので、誰の視点なのか誰の台詞なのかということも分かり難い。又、東北、北海道の人達が乗りこんでいるということで台詞もその地方の方言で書かれているので、これも読み難い。
それでも過酷な労働環境という重さがずっしりと伝わって来るという迫力があります。
最後の点については、自分も関西弁の話言葉で文章を書いてしまうことがあるので、他所の地方の人には読み難いと思われてるのかな、とちょっと反省。

世の中には、本作のように労働者にはやはり連帯が必要なのだと考える人と、労働者になっても辛いだけだから資本家の側、使用者の側に回ろうと考える人がいるのではないかと思います。
昔、ある人が「金持ちになりたかったら不労所得ですよ」と言ってたのが心に残っています。自分が働いた分の労賃を貰っているだけでは人より裕福には成れない、人を働かせてその上前を撥ねるということしか金持ちになる方法はない、だから、そういうシステムを創り上げて沢山の人を使ってその上層に就くことが出来るかどうかだ、という事を話していて、ある意味それは真理だよなと思っています。
実際、現代でも、起業、経営、マネジメント、リーダーシップ、etcと労働することより労働させる側にまわろうとする文言はあふれていると思います。

プロレタリア文学ということで左翼系の文学であるわけだけど、左翼関係って色々と読んだけれど、聖典といえるようなものはマルクスの『共産党宣言』くらいしか読んでないかも知れない。古典となっているもので沢山読むべきものはあるのに。
思うに、左翼は勉強しないと成れないけど、右翼は勉強しなくても成れるのが大きな違いじゃないだろうか。本当は右翼も色々勉強することがあるんだけど、先ず愛国心さえあれば受け入れられてしまうというところが味噌じゃないかな。ネトウヨが跋扈しているのもそこら辺じゃないでしょうかね。
ただ、左翼の人も日本を良くする為には社会主義的方策が有効である、という考え方なだけであって、日本の社会を良くしたいという気持ちは愛国心から発するものだと思うんですよね。愛国心が右翼の専売特許だと思っていて、自分たちの意見に賛同しない人には「反日」のレッテルを貼るのは、ネトウヨさんたち勘違いしてらっしゃると思います。