帰ってきたヒトラー

2016年、ドイツ、デヴィット・ヴェント監督

現代にタイムスリップしてきたアドルフ・ヒトラーがテレビ局に取り上げられ一躍人気者になってしまうコメディー作品。

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『ナチス第三の男』『ブラックブック』に続いてナチスものを観てみた。
軽いけれど風刺の効いた喜劇として面白く見た。現代ドイツの諸問題に詳しければもっと面白く見られたのだと思うけれど。
ヒトラーが現代に蘇って意外と的を得たことを言うという話なのだけれど、どんなに悪行を重ねた人間でも悪いことだけやってる言ってるということはないのでその発言がマトモだったりすることはあるのではないでしょうか。

少し前にtwitterで、信頼している言論人たちが「この件については古市憲寿の言っていることには一理ある」とか「この件については橋下徹の意見は正しい」みたいな発言をしていた。自分としては、この御両人については基本的に危うい考え方の持ち主だと思っているので意見を聞きたいとも思わないのだけれど。彼らだって何から何までクソのような発言をしているわけでもない。珠にはまともなことも言うだろう。でも普段はクソのようなことばかり吐き出しているので珠に良いことを言うとこんな風に評価して貰える得な役だと思う。
良く似ているものに、不良少年だった者が成人して普通の社会人になっているだけで立派に更生したと褒められたり、ヤクザが珠に親切だったりすると意外と良い人に認定されるようなものも同じことだろう。落差の問題で、古市も橋下も思想的に不良だけど珠に良いことを言うだけで取り上げられるという構図。
本作も悪名高いヒトラーが、現代ドイツの問題について意外にも本質をついた発言をすることで人気を得るという同じ構造です。

ドイツの右翼政党をおちょくったり、マスメディアが視聴率を得る為になりふり構わず行動するところなどを皮肉っていてドイツでも日本と同じなのだなあと思ったり、後半ではヒトラーを選んだ民衆をも批判していて、全方位的に笑い者にしているところ等はとても痛快です。どちらかの勢力について正義を振り回すよりも全方位に唾を吐きかけてる人間の方が見てる分には面白いから。

ドイツ映画って独特の質感と空気感があるなあと思いました。街の景色や室内のインテリアみたいなところだろうか。