お嬢さん

2016年、韓国、パク・チャヌク監督作品

日本統治下の朝鮮で莫大な遺産を相続している令嬢と叔父、その遺産を狙う詐欺師と、その一味として女中に成りすまし潜り込んだ女、彼等が入り乱れるフェティッシュな世界観の物語。

www.youtube.comパク・チャヌク監督の作品は『復讐者に憐れみを』、『オールド・ボーイ』、『親切なクムジャさん』の復讐三部作が死ぬほど好きなのですが、それ以降の作品は未見なのです。だってレンタル屋にもあまりないし、どこの映画館でもやってるわけじゃないので見逃すとなかなか観られないから。
なので今回は見逃すまいと劇場に出掛けたのですが、感想はというと、そんなに面白いと思わなかった。結末もなんだか予想できたし。でも二転三転する展開を描く構成には感心したし、主演のキム・ミニの美しさも堪能した。

一番思ったのは「パク監督の最近作はこんな感じに進化したんだなあ」ということ。
復讐三部作は作品が進むにつれてパク・チャヌク作品のフォーマットが整っていくのを感じていて、それは映画の質感が漫画的というかお芝居的というか、リアルな世界じゃなくなってきてる。リアルさを追求するよりも寓話的というか幻想的というかそういう描きたい世界を描くことに注力しているように思える。その進化は本作『お嬢さん』でもより進んでいるように思えて、令嬢の住む館はファンタジーかと思えるような豪壮で奇妙な作りだし、演者たちも本当にいそうな人物と言うよりは、漫画のキャラクターのように見える。どれも現実ではなく非現実感の方が大きい。
パク・チャヌク作品では『復讐者に憐れみを』で見られた現代韓国の汚い部分を描いていたのがとてもリアルで好きだっただけに惜しいような気がするのです。でも残酷描写だけは一貫してエグいです。そこは変わらない。

もひとつ言っとくと主演のキム・ミニは松嶋菜々子にちょっと似てるかなあって思いました。

LA LA LAND

2017年、米国、デミアン・チャゼル監督作
女優の卵とジャズクラブを持つことを夢見る売れないピアニストの男、二人は出会い励ましあい、それぞれの夢に向かって突き進む、ミュージカル作品。

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冒頭、渋滞のハイウェイからドライバーたちが飛び出してきて歌い踊るシーンでもう楽しい。ハイウェイの向こうの方、渋滞の最前列の人まで踊ってる。凄い。CGかも知れないけど、これだけでもうテンションが上がる。最高。
その踊る群衆の中で、黄色いワンピースの女が両手を広げて背中を見せる場面があるんだけど、その背中が良いんですよね。肩甲骨が浮き出たような痩せた背中じゃない。肉体的に充実した背中。健全な筋肉とか見せられたら高揚するじゃないですか。シュワルツネガーの映画なんてそのテーマの9割方は筋肉なんだから。後の一割が未来からの殺人ロボットだったり異星人だったりするだけでしょ。

もうエマ・ストーンが可愛くて仕方ない。知らない女優さんだったので、映画の最初に見た時は目と黒目が大きい人だなあ、くらいの感想だったのが、どんどん可愛くなる。エマ・ストーン頑張れ!って気持ちになる。愛らしくて堪らない。そして最後には貫禄のある姿まで見せるという凄さ。

対する男優であるライアン・ゴズリングはなんだかぼーっとした男という印象なんだけど、これは意味があるんじゃないでしょうか。

映画の鑑賞前に、ツイッターで「『LA LA LAND』は『Streets Of Fire』」みたいなつぶやきを見掛けて

 (たぶんこの方)


「へー、そうなん?でもどこにそんな要素あんの?」って思ってた。映画を観た後は本当にそう思う。この映画は『ストリート・オブ・ファイアー』なんです。

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『ストリート・オブ・ファイアー』は1984年作の米国、ウォルター・ヒル監督作。
女性歌手が故郷である街に凱旋公演にやって来たが、隣町の暴走族にさらわれてしまう。そこで彼女の昔の恋人だった男を呼び寄せて彼女の奪還を依頼するというお話です。
ダイアン・レイン演じるロックンロールの歌姫を助け出すのは、かつては札付きのワルだった元恋人マイケル・パレ。超絶的に単純なストーリーで一切の装飾がなく、またライ・クーダーの音楽が随所に埋め込まれてミュージカル映画の要素さえある。物語は男が才能のある女を助け出し、そして彼女の邪魔にならないようにそっと去って行くという結末なのですが、それが『LA LA LAND』と酷似している。

ライアン・ゴズリングエマ・ストーンを励まして独り芝居を勧めて応援する。そして大きな役のオーディションがあることを報せ、彼女をその気にさせるのもゴズリング。これは才能のある女を助け出すという『ストリート・オブ・ファイアー』のマイケル・パレの役割と一緒。そして静かに離れていくところも同じ。
マイケル・パレもあの映画では悪行に関して頭がきれるだけで、自分で「俺は君に見合う男じゃない」的なことを言って去って行くちょっとした駄目人間だった。そこら辺はマイケル・パレの素が醸し出してたのかも知れないけれど、『LA LA LAND』でのライアン・ゴズリングがあまりキリッとした表情を見せないで切れ者じゃない風を装っているのも同じじゃないだろか。ボンクラ男が才能のある女を助けて静かに去って行く。そこにあるボンクラの美学が素晴らしい映画だと思います。

『ストリート・オブ・ファイア』では彼と彼女の馴れ初めは軽く描いて、その奪還戦に焦点をあてて描いていて男と女がその後どうなったかは描かれていない。
対して『LA LA LAND』ではエマ・ストーンとゴズリングの出会いから仲が良かった日々、そして再会を描いていて、どうやって分かれたのかは軽くしか描かれていない。パズルのピースの凹と凸のように『ストリート・オブ・ファイア』で描かれなかった部分が『LA LA LAND』では描かれていて、もの凄く綺麗に当て嵌まる。
『LA LA LAND』は『ストリート・オブ・ファイア』を補完する物語だと言ってもいいのではないかと思う。

駄目人間のことでいうと、だって才能ある男と才能ある女の話なんか見たい?ちょっと駄目人間要素がある主人公の方が愛らしいでしょう。そう思うと劇中で赤いジャンパーを着てショルキー(ショルダーキーボード)を抱えているゴズリングのダサさにも納得がいく。実は有能なピアニスト、なんて設定だけじゃ好きになれない。格好悪い面もないと。というか格好悪い部分こそが好きなんだけど。俺たちはみんな映画俳優や女優のように格好良くない存在なんだから、格好悪さを愛さないと。じゃないと自己否定が延々と続くことになるでしょう。格好悪い自分を肯定する意味でも格好悪さを愛すべきだ。ショルキーのダサさは2周半くらい反転して格好良い!

その他、夜の路上でドレスの裾を翻して女4人が踊る場面、夕暮れの駐車場で主人公の二人がタップを踏む場面、プラネタリウムで浮遊する二人等々、最高に幻想的で浮世の辛さを忘れさせてくれる映画でした。
ミュージカル映画なんて登場人物が突然歌って踊るんだからリアリティとは無縁でしょ。ファンタジーで良いはず。最高のファンタジーでした。サントラも買ったから。

あなたを待っています

2016年、日本、いまおかしんじ監督作
アルバイトをしながらだらだら暮らす青年、西岡は地震原発で東京は危険だと考えていて脱出を夢見ながらだらだら過ごしている。

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https://www.mmjp.or.jp/pole2/2016/anatawomatteimasu/anatawomatteimasu.html

漫画家いましろたかしの企画・原案ということでいましろファンは、のこのこ京都まで映画を観に行ったのです。

主人公は何をしている人なのか分からない。冒頭で何かそれらしい会話があったけど聞き取れなかった。居酒屋の皿洗いと交通警備のバイトで暮らしている人だが、何もしていない人という形容が良かろうかと思う。ただ友人と酒を飲んで吐いてずるずると毎日暮らしている。
話の本筋は、駅前で「あなたを待っています」と書いた紙を首からぶら下げた女と、彼女の助けになりたいと思う主人公の話ではあるが、それはどうでもいい。それよりもスナックのママにヤらせてくれと言って説教される場面の方が愛おしい。

たぶん恐らくもしかして、そういうどうしようもない感じの可笑しさを表現したかった映画なのだと思う。いましろ漫画にあるような、どうでもいい何てことのない無駄と言えば無駄な、でもそこはかとなく可笑しい、そんな雰囲気の漂う映画を作ろうとしていたのではないかと思う。そしてそれは成功の一歩手前まで辿り着いているような気がする。

しかし主人公が女を助けようとする辺りから彼に意志が見え始める。ただぐずぐず暮らしていた男が何かを成し遂げようとするところに目的が現れる。そうするとずるずる暮らしていることが否定的に見え始める。目的や意志はぐだぐだとは相性が悪いのだ。

いましろ氏によると

 『タクシードライバー』が元ネタで、かわいそうな女の人を勝手に助けたら自分が気持ちよくなるかなって」と

大橋裕之が主演映画で「ギャラもらってない」と、いましろたかしら制作陣にぼやく - コミックナタリー

 らしい。確かにいましろ版タクシードライバーと言える。トラヴィスと違うのはベトナム帰りじゃないってことぐらいだ。

面白かったかと聞かれればそんなに面白いとは思わなかった。でももっと面白くできるはず。いましろ映画の次作に期待します。

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極私的2016ベスト

年末なので今年のベストを

■映画
インサイド・ヘッド

augtodec.hatenablog.comいきなり2015年公開作品でビデオ鑑賞なんですけど、これを挙げずして2016は語れない。もうボロ泣き。落涙。嗚咽。泣き過ぎて最期の方はしゃっくり。それぐらいの涙。ピクサー最高傑作と断言していいと思う。
だって最高なんですもん。心理学的な内容を子供向けの冒険譚に仕上げて、それでいて大人も泣かせるという手腕に敬服して土下座しない人はいないと思う。今年のアニメでは『この世界の片隅に』がもの凄く良かったけど、それでもこれをベストに入れずにはいられない。
以来おもちゃ屋さんでフィギュアのコーナーがあるとインサイド・ヘッドのフィギュアがないか隈なく探していますが全然ない。なんかアニメっぽいやつしかない。フィギュア業界は心を入れ替えてインサイド・ヘッドのフィギュアを大量生産して欲しい。ヨロコビのフィギュアが欲しい。

次点
シン・ゴジラ

augtodec.hatenablog.com映画館で観た映画も。この映画って一切人情話がでてこないんですよね。ただただ冷徹に状況を判断してそれを実行するという愚直な仕事の様を描いている。仕事を描いた物語でも人間関係だとかちょっとした恋とかすぐ描きたがる映画が多い中でストレートなお仕事映画でした。仕事ってのは情や人間関係で判断が鈍ったらいかんよ。


■読書
ポル・ポト ある悪夢の歴史』

augtodec.hatenablog.com素晴らしかったです。寝て読んでたら腕が疲れるくらいの分厚い本でしたが夢中になって読みました。
キチガイの話って面白いじゃないですか。連続殺人鬼とか。偉人とか天才とかの生涯が伝記や物語になるのもあの人たちは常人の考える常識の枠に収まらないという意味で基本的にキチガイだと思うんですよね。だから面白い。良い功績があるからチャラにされてるけど基本的にはキチガイだと思います。
ポル・ポトっていうのは完全に負の方向にふりきったキチガイで、尚且つ一人で狂ってたわけじゃなくて国を動かすほどの人間が狂っていたということで、人類史に残るキチガイなのです。アドルフに並ぶ狂いっぷりだと思う。いかつい本でした。

次点
日本会議の研究』

augtodec.hatenablog.comベストセラーにもなった本書ですが、刊行以降は日本会議のことってマスコミでも随分取り上げられてますよね。その口火を切ったという意味でとても重要だと思うし、現在の政権の右傾化の深淵を暴くという意味でも大きな功績があった書籍だと思います。

 

■音楽
INCAPACITANTS@難波ベアーズ

augtodec.hatenablog.comノイズの教科書INCAPACITANTSのワンマンライブ。いやー、もう凄かったもの。耳がおかしくなったもの。突発性難聴になったもの。ほんとあの迫力って何なんですかね。たかが音ですよ。それもメロディーもリズムもないノイズ。ギャーとかビーとかいってるだけですよ。でも圧倒的なパッションを感じる。激情の塊。感情の嵐。凄すぎました。最高です。言葉になんかできないです。

次点
SHISHAMO3

augtodec.hatenablog.com3ピース・ガールズロックバンド、SHISHAMOのアルバム。地味に何回も聴いてます。こういうのが好きだって言うのちょっと恥ずかしいけど好きなものは仕方ない。

***

映画も本も音楽も量をこなせていないのです。ベストを選出する資格はないくらい。やっぱ経済的に困窮しているのがいかんです。来年はもう少し良い年にしたい

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

2016年、米国、ギャレス・エドワーズ監督
帝国軍の究極兵器、デス・スターの開発者を父に持つ女性は反乱軍に雇われデス・スターの設計図を盗み出す任務に挑む。

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第一作『スター・ウォーズ』の前日譚となるお話で、本編の物語とは違う登場人物たちが活躍する作品です。とはいえエピソード4との整合性には気を使っている作りになっています。
アニメでは派生作品はあるようですが、実写映画による外伝物は初ということで期待して観ました。

色々つっこみ所はあったけれど基本的に面白かったです。スペースオペラなので細かいこと言ってもしょうがないから。
スターウォーズの魅力って、驚きのビジュアルにあると思うんです。初期3部作で作り上げた設定と世界観があって、その世界を視覚化して見せてくれるという魅力がある。
第一作から暫くはCGのない時代の作品で、その驚くべき視覚体験が素晴らしかったし、特殊撮影がどうなってるのかという驚きがあった。続くep1~3はCGでどれくらい凄い世界を見せてくれるのかという期待もありました。
CGでの技術が発達して普及した結果、その技術自体に驚くことは無くなったわけで、だったらどうするかというと映画的に盛り上がる映像を創り出さないといけない。本作はその辺りに挑戦してる感じがします。砂漠の中の町とその真上に浮かぶ巨大宇宙船や市街戦で歩行する兵器が襲ってくる場面、南国のような惑星で繰り広げられる戦闘機同士のドッグ・ファイト、巨大宇宙船をタグボートのような小さな宇宙船で押してぶつけてしまうギミックなど映像としてとても楽しめる場面が多かったです。SF映画の楽しさという点では申し分ないのじゃないでしょうか。

登場人物たちも完全な善といった感じではなく陰のある設定になっていて、その辺りも好感です。矛盾のない潔癖な人間っていないから。

C3POR2D2がちょこっと出たり、他にも見覚えのあるキャラクターが登場するのはファンには楽しいのじゃないでしょうか。ただ、これは全く無しでも良かったのじゃないかという気がします。それが分からなくても楽しめるので良いんだけど、もう全くの外伝物として作り上げても良かったとも思う。とはいえep4の前日譚という設定なのでその辺りは逃れられないものでもあると思います。

本作の製作がアナウンスされてから、それってどうなのよ、みたいな気はあったんです。スター・ウォーズのシリーズはその設定を使えば幾らでも面白いものは作れるだろうけど、あんまりそういうことするとシリーズ自体が軽くなってしまわないかなと。でも本作を観てちょっと考え方が変わりました。面白いんだからどんどんやればいいんじゃないでしょうか。もう全く関係ない別の場所での別の登場人物のお話なんかもやればいいと思う。

まあ、でも、本作はダーズベイダーがいかに格好良いかということを示す作品だと思います。それに尽きる。